謎解きのプロの登場

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謎解きのプロの登場

 いくら、おばあちゃんに任せると言われたところで、僕もヒナもフツーの子供。失踪者の過去を探る方法なんて知るわけがない。  そこで翌日、僕らは「謎解きのプロ」に知恵を借りに行くことにした。 「だいたいの話はわかったよ」  穂積は頷くと、メガネのブリッジを指先でくいっと押し上げた。  僕たちは穂積の家の書斎にいた。僕が低学年の頃までは、穂積の父親はいつも書斎にいて、原稿を書いていた。いいネタが思い浮かんだり、執筆がはかどっているときは鼻歌が聞こえてきたりした。穂積の父親はクマのようにでかく、そして親切だ。どんなに締め切りが迫っていようと、僕が家に行くと、「やあ、コウイチくん。ゆっくりしていって」と無精髭だらけの顔で優しく歓迎してくれた。  今、書斎の机にはおじさんの原稿ではなく、穂積のタブレットが置いてある。いつの頃からか、おじさんは、「シェアオフィス」という場所を借りるようになって、そこで執筆するようになった。  謎解きのプロこと穂積は、天井まで伸びた本棚をぐるりと見渡して、 「失踪する理由は大きくわけて三つある」  と言い、指を三本立てた。 「一つ、事件に巻き込まれた。二つ、事件を起こした。三つ、ただその場や仲間たちから逃げ出したくなった」 「一番と二番はないと思う」  ヒナがきっぱりとこたえた。 「犯罪にからんでいたとしたら、お母さんの耳に入っているだろうし、そうだとしたらさすがにおばあちゃんだって、私たちに調査させようとは思わないだろうから」 「どこから手をつけたら良いと思う?」  僕が訊くと、穂積は腕を組んだ。 「ネットで名前の検索はした?」 「した」  僕とヒナは頷いた。検索エンジン、各種SNSで「香具山雨」と検索をかけたけれど、ジイサンと思しき人物は見つからなかった。 「となると、身近なひとからあたっていくしかないね。おじいさんは大工だったんだっけ? 職場の仲間や友人や近所のひと、あとは親きょうだい」 「大工だったのは大昔の話で、倒れたときは駐輪場の管理人をしていたんだって」  ヒナが言った。ジイサンは、駐輪場の仕事中に倒れて、病院に搬送されたのだ。 「あと、おじいちゃんは一人っ子で、両親は――つまり僕らにとってのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは、おじいちゃんがおばあちゃんと結婚する前に亡くなっている」  これは僕が補足した。 「係累縁者(けいるいえんじゃ)なしってわけか」  穂積は天井を仰いだあと、「立ち入ったことを訊くけどさ」と僕に顔を向けた。小説家の息子なだけあって、穂積は語彙(ごい)が豊かだ。僕のまわりで「立ち入ったこと」なんて言葉を使いこなすのは穂積くらいだ。 「コウイチとヒナさんは、おじいさんとおばあちゃんが一緒の墓に入るのに賛成なの? 反対なの?」  そりゃあ……、と僕は自信なげにこたえた。 「反対だよ。だってお墓って、あの世バージョンの『家』みたいな物でしょう」  僕にとってジイサンは透明人間だ。いるのに、いない。家族じゃないけど、まったくの他人でもない。納骨式なんて聞いてもピンとこない。そんな中途半端なひとが、おばあちゃんの買ったお墓に入るのは、なんか違う気がする。それじゃあ、どこに埋葬すればいいんだって訊かれても困るけど。 「私は、まだわかんない」  ヒナがこたえた。てっきり僕と同じ考えだと思っていたから、「え、そうなの?」と聞き返すと、 「だって、まだどういうひとなのかわかんないから」  とヒナはこたえて、肩をすくめた。そうだった。ヒナは決断力のあるサバサバした性格だけど、少ない情報や周囲の空気だけで、誰かや、物事を「こうだ」って決めつけることはしないタイプだった。  それから少し話し合ったのち、僕とヒナはとりあえずは「正攻法」として、ジイサンの元職場に行ってみることになった。
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