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 心配して駆け付けてくれた紀明にぃ。軽装の紀明にぃを心配し一緒に道を引き返してくれた親切な夫婦。カエちゃんはお土産屋さんのベンチで泣きながら待っていてくれた。美玖が見えると飛んできて「ごめんね、ごめんね」と繰り返した。カエちゃんが渡してくれたタオルはカエちゃんの匂いがした。そして後から駆けつけた、怒りながら涙ぐむおとうさんとおかあさん。  美玖には沢山の手が差し伸べられたのに、更紗ちゃんには何一つなかったのだ。  美玖があの時、一声かけていれば……。 「目撃者っていうのはね」  警察官がおもむろに美玖の肩を抱いて言う。 「ずっと罪の意識に苛まれるんだよ。だけど、君がなにか出来たかっていうと、なにも出来なかったというのが答えなんだ。みんなそう。君が大人でもかわらない。だから、もう泣き止むといい。更紗ちゃんは帰れたんだよ、君のおかげで。冷たい土の中より家に帰れたんだから……」  ヒックヒックとしゃくり上げながら「でも止まらないんです。泣き止む方法を教えて下さい。泣きたくないのに涙が……」と美玖が答えると、警察官がさらに肩を強く抱いて擦ってくれた。  LAGOONはなくなり、蝉が鳴くだけの広場になった。山の中腹だがじっとしてても汗が滲み出てくる。  美玖はこの夏を決して忘れないと思うし、この先も夏は大嫌いだと確信していた。それでも何度も夏を体験しなければならない。美玖は生き残れたのだから。美玖の抜けてしまった髪はいずれ戻るだろうと医者に言われているが、更紗ちゃんの可愛らしい笑みは二度と戻らない。  助けられなくてごめんなさい。  手を合わせて更紗ちゃんに謝ると、またじわじわと涙が溢れてきた。  二度と同じ夏は来ない。そして、更紗ちゃんにももう夏は来ないのだ。忘れない夏。美玖は夏が来るたびに思い出すだろう。あの太い眉毛の可愛らしい女の子を。 了 2022.4.26
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