一章・三

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一章・三

 早希の通う高校はスポーツに力を入れていることもあり、体育館が二つある。女子バレー部が活動しているのは第二体育館だ。放課後、早希は第二体育館へ向かった。  体育館の前に着くと、女子バレー部員たちのかけ声が聞こえてきた。ドアの隙間からのぞく早希に気づき、奏音が部員たちから抜けて駆け寄ってきた。彼女は早希と目配せすると、女子バレー部員たちの中から目的の人物を探す。 「乙丸、ちょっといい?」 「どうした?」  奏音が呼びかけたのは同じ中学だった乙丸雅(おとまる みやび)だ。赤茶けた短い髪をタオルで拭いていた乙丸が、軽快な足取りで駆けてくる。フットワークの軽い筋肉質な足が綺麗で、中学生のころから彼女は早希のあこがれだ。  乙丸は中学時代、水泳部だったのだが高校進学とともに水泳は辞めたらしい。高校では奏音と同じ女子バレー部に入り、今では二年部員のリーダー的存在でもある。高い運動神経と長い手足を活かして、バレー未経験ながらも急成長中の選手だ。  同じ中学の彼女なら早希も話しやすい。まずは彼女に協力してもらおうと、奏音と相談して決めたのだ。 「二年の部員全員に話があるんだけど、集めてもらえるかな?」  早希に言われ、乙丸は腰に手を当てて首をかしげる。 「良いけど、なんで高花?」  不思議そうにしていたが、乙丸はすぐに近くで休憩していた二年部員たちを呼び寄せる。  彼女に呼ばれた二年の部員たちは五人。乙丸と奏音を入れて、合計七人がバレー部員の二年生たちだ。彼女たちは乙丸に「どうしたの?」「何かあった?」と、口々に聞いている。
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