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照れくさそうな笑みを返され、早希はスキップしたくなるが思いとどまる。そこまでしたら奏音に笑われる。もう高校二年生で後輩だっているのだ。大人なふるまいを心がけようと考え直し、「がんばってね」と簡単な言葉だけにとどめる。
まだ夕方は肌寒いが、長く手を繋いでいると少し汗ばむ温度になってきた。しっとりとした自分の手の感触が気になったが、この心地よい時間が終わってしまうのが名残惜しくて放したくない。
「写真撮りに行くからね」
「新しいカメラ買ってもらったんだっけ?」
写真部に入り、一年生のころは部活で共有しているカメラを使っていた。それがつい先日、ようやく自分のカメラを買ってもらったのだ。
「お父さんに頼んで買ってもらったから、お母さんに怒られたけどね」
早希の両親は早希が中学一年生のころに離婚していた。今は母親と亡くなった祖父母の家で暮らしているが、たまに父親の正輝とも会っている。二年生になったお祝いだと言ったが、勝手に父親に買ってもらったことを母親の蓉子はよく思っていない。
母親には悪いが、リュックの中にあるカメラが今の早希には宝物だ。バレーをする奏音を撮るアングルを考えていると、高花家の手前で奏音が立ち止まった。
「すごい。こんなに大きいバイク初めて見た。かっこいい」
奏音は熱いため息をつく。彼女の視線の先に見えたのは、高花家の門前に停まる赤い大型バイクだ。
夕日に照らされ、赤いボディが光っている。
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