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「今日は夜勤じゃないって言ってなかった?」
早希の母、蓉子は看護師をしている。確か母は夜勤のはずだったと思い出し、早希はとっさに会話を切り替えた。
言われて思い出したのか、蓉子は玄関先に置いていたカバンを引っ掴んで仕事用のスニーカーを履き始める。
「急に出勤になったのよ。夕食は冷蔵庫に入れておいたから。あと、洗濯物たたんどいてね。それから、私が行ったらすぐに戸締りね」
「分かってるから! もう、早く行きなよ」
玄関からなかなか出ようとしない母親を早希は押し出そうとする。玄関に降りようとしたところで「裸足!」と蓉子は早希の足先を指さした。
まだ言いたいことはありそうだったが、さすがに急がないといけないようだ。蓉子はやっと玄関ドアを開いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ようやく母親が出かけ、早希は一息ついてからリビングへ向かう。
電気を付けると、部屋の片隅に取り入れた洗濯物が積んであった。
まずは洗濯物の片づけ、それから夕食にしよう。今晩の予定を頭の中で立てながら、思い出したのは奏音の顔だ。
話があると言っていたが、今度の大会のことだろうか。考えながら予定を済ませ、ようやく早希は自室のベッドに横になった。
スマホを出して奏音にメッセージを送る。
〈宿題終わった?〉
何気ないメッセージがいつもの合図だ。普段ならメッセージに既読がついてすぐに電話がかかってくる。待っている間に宿題をしておこう。勉強に取り掛かり、早希が寝るまでの間、奏音からの着信はなかった。
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