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一章・二
早希と奏音は中学時代の三年間、同じクラスだった。同じ学校外のバレーボールクラブに通っていたこともあって、二人はいつも一緒にいた。友達だった関係は中学の卒業式の日に恋人に変わる。
それから同じ高校に進学し、一年生だったころは同じクラスだったが二年生では一番端と端のクラスに分かれた。別のクラスになって早希は面白くなかったが、奏音はとくに気にしてない。
両親や友達から感情的だとたまに言われる早希とは違い、奏音は大人っぽくて冷静だ。別に生真面目なわけではなく、冗談を言ったり肩を揺らして大笑いしたりもする。
中学の三年間、マスクで隠れた奏音の素顔を見る機会はクラブ外だとほとんどなかった。彼女は顔が半分隠れていても体全体で笑う。眉間にしわを寄せて肩を揺らしながら笑う奏音が、早希は好きだった。
奏音の様子がおかしいと気づいたのは今朝のことだ。彼女の朝練が終わる時間に合わせて早希は登校するのだが、いつもだったら更衣室の前で待っているはずの奏音はいなかった。
何かあったのだろうか。スマホでメッセージを送ったが返事はない。ようやく彼女と会えたのは昼休みになってからだった。
いつも早希と奏音は写真部の部室で昼食をとる。写真部の部員が少ないこともあって、今日も部室には二人しかいない。
「昨日は大丈夫だった?」
話を切り出したのは奏音だ。何かあったのか、切り出せずにいた早希は変わった様子のない恋人に安堵する。
「大丈夫と言えば大丈夫。大丈夫じゃないと言ったら大丈夫じゃないかな」
「どっちだよ」
お弁当を食べる手を止め、奏音は肩を揺らして笑う。
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