一章・二

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 二人きりの教室は良く音が響く。彼女の笑い声が廊下や窓の外から聞こえるざわめきをかき消した。ようやく二人きりに慣れた気がして、早希はこの時間が好きだった。  奏音は早希よりも一回り大きなお弁当を再び食べ始める。卵焼き、からあげ、おにぎり、からあげ。食欲もいつもと変わらない。次々に食べていく彼女を見ながら、早希も自分のお弁当を食べ進める。  早希のお弁当はスポーツを辞めてから小さくなった。仕事で忙しい母親に作らせるわけにもいかず、高校生になってからはいつも自分で作る。大半のおかずは母親の作り置きだが、好きなおかずをお弁当に詰める作業は意外と楽しい。 「おばあちゃんが恋人と駆け落ちした話したことあったでしょ?」 「あの人?」  自分で作った甘い卵焼きを食べながら言った早希に、奏音は箸をとめた。視線を上に向けて考え、思い出したのか「ああ」とうなずいた。 「あの人。板倉万智子さん。名前は昨日知ったんだけどね」  万智子にもらった名刺をポケットから取り出し、早希は奏音に見せた。 「万智子さん? おばあさんに手を合わせに来たとか?」 「分かんない。お母さんが何も話してくれなくて」 「それで、この名刺をもらったってわけか」  奏音は身を乗り出して名刺を覗き込む。 「連絡した?」 「してないよ。勝手に連絡とったらお母さんに絶対怒られるし」  名刺を取ろうとする奏音の手を避け、早希は胸元に収める。 「それに、あの人よりも昨日は奏音と電話したかったんだけどね」  冗談交じりに、内心では緊張しながら早希は言った。
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