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一章「再会」
日が暮れ始めた田舎道は、春風が吹くと町中の匂いが通り過ぎる。揺れる草木の匂い、湿った土の匂い、どこかの家の夕食の匂い。夕暮れの肌寒さが残る春の住宅街に、二人の少女の影が伸びていた。
高花早希は恋人の手を繋ぐ帰り道が一日の中で一番好きだ。隣で歩く楠見奏音を見上ると、視線に気づいた彼女が首を傾げた。
高校に入学したころは奏音の歩調の方が少し速かった。今では自然と、二人の歩調は心地よいリズムでそろっている。
「大会までもうすぐなんでしょ? 部活終わるの遅くなりそう?」
早希が尋ねると奏音は少し考えて答える。
「ちょっとね。去年は試合に出られなかったけど、今回は出られそうだから」
奏音は一年生のころから女子バレー部に入っていた。
一年生の間、奏音は中学時代のけがのこともあって練習をセーブしていた。顧問の先生や先輩も彼女を気づかってくれたらしく、本格的な練習を再開したのは去年の秋からだ。
中学生のころから奏音がバレーをする姿が好きだった。ようやく活き活きとした彼女が見られると、早希は嬉しくて繋いだ手をぶらぶらと振った。
「待っててもいい?」
早希に応えるように、奏音は繋いだ手を強く握る。
「別にいいけど、無理しなくても大丈夫だよ」
「無理してないし」
「じゃあ、待っててくれると嬉しい」
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