七の輪

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 ふと、瞼を上げる。白く明るい天井が、ライを優しく出迎えた。ここは、……南の国の王宮か? 明るさの度合いから、そう、判断する。次の瞬間。 「ライ!」  叫び声とともに、ライの視界にイーディケ伯母の顔が映る。その伯母の顔色に疲労の色を認め、ライの心は悲しみに鷲掴みにされた。自分は、……オストとテムを助けることが、できなかった。 「ごめん、なさい」  小さな声が、ライの口から漏れる。 「良いの」  そのライの声に、伯母は涙を浮かべた瞳で頷き、そしてベッドに横たわるライの左腕をぎゅっと掴んだ。 「あなたが、目を覚ましてくれたから」  伯母の言葉に、ライの目にも涙が溢れる。その涙に気付いた伯母が、ライの額に置かれていた手拭いでライの瞳を拭ってくれた。 「あの」  その伯母に、尋ねる。 「アールは? ユニは? レナさんは?」 「みんな無事よ。サジャも、フィルも」  明るさを取り戻した伯母の返答に、ライはほっと、息を吐いた。  暴走する幻獣に蹂躙された皇国は、南の国の王ルフと北の国の女王エーリチェの後援の下で、徐々にではあるが平穏を取り戻しているらしい。幻獣が皇都を破壊して以来行方不明になっている皇王レクトの跡は第二皇子ユニが継ぎ、幻獣に破壊された皇都も少しずつ復旧が進んでいる。近衛騎士隊長であるフィルも、施療院の主でユニの叔母であるレナも、それぞれの地位と能力を皇国の復興に充てているそうだ。そして。 「アールは?」 「ここだ」  伯母への問いに、本人の声が響く。首を横に動かすと、普段通りの横柄な口元が、部屋の入り口に見えた。 「やっと気付いたか」  年下とは、異母弟とは思えない口調とともに、アールはライのすぐ横に現れる。 「全く、おまえの目が覚めるまでこんな暑い所にいろって、エーリチェも無茶なことを」  生成色のチュニックの襟元をばたつかせて毒突くアールに、ライは静かに微笑んだ。いつもの、出会った時と同じ、アールだ。良かった。アールには分からないように、心の中で、ライは安堵の息を吐いた。 「さて、ライも目覚めたことだし、これで皇都に帰れるな」  そのライに、アールがにやりと笑う。 「おまえも皇都に連れて来いと、ユニ陛下の命令もあるし」  近衛騎士として、ライにも皇国の復興を手伝って欲しい。アールが口にしたユニの言葉に、伯母が何かを思い出したような顔をする。つとライの側を離れた伯母が、戻って来た時に手にしていたのは、濃い青色の上着。その上着の左袖に留め付けられた白い線の数に、ライは思わず首を横に振った。 「お、伯母さん、それ」  左袖の『輪』の数は、七つ。父が身に着けていた上着に縫いつけられていた輪の数と、同じ。テムとオストを、大切な人を救えなかった自分には、相応しくない、数。ライは首を強く横に振ると、差し出された上着を伯母の胸に押しつけるように返した。  と。 「ふん。『七つ輪』か」  鼻を鳴らしたアールの声に、顔を上げる。ライを見詰めたアールは、勝ち気な言葉で叫んだ。 「近いうちにおまえを追い越してやる。そして左袖も右袖も、『輪』でびっしりと、埋め尽くす」  ある意味無謀な、アールの言葉に一瞬、目を丸くする。しかしアールなら、やりかねない。力強くライを見詰める、アールの視線に、ライは静かに、微笑んだ。
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