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石で造られた不安定な石段を登り、俺は片手に花束を抱えてある場所へと向かう。
「はぁ………きちぃ~」
まだまだ若いはずだけど、なにぶん運動をしていないせいか石段を上るのは足腰に堪える。
そうこうしているうちに目的の場所へとついて俺は辺りをみまわしてある一点に視線を止めた。
「あそこか………」
素朴な墓石。
その墓石の前に立って俺はそっと手を合わせて、そこに手に持っていた花束を置いた。
「…よぉ、久しぶりだな。夕陽。」
そう、ここは東が眠っている墓だ。
「お前が眠ってるうちに、もう五年も経っちまったよ。俺もすっかりいい男になっちまった」
けらけらと墓石に向かって笑いかける。
お前は…どこにいんのかな。
俺はポケットから小枝を取り出すと花束の隣にそっとおいた。
「これ、覚えてっか?あの時の枯れかけの木な、今じゃあの病院で一番デケェ木になったんだぜ?すげぇよな~」
笑顔で話を続ける俺。
その光景は傍から見たら変な光景なのかもしれない。
滑稽なのかもしれない。
それでも、伝えなくてはいけないことがあるんだ。
会えないと分かってはいても、この天国に一番近い、あいつに一番近いこの場所で言わなければいけないことがあるんだ
「…………なぁ…約束、守れなくてごめんな?5年もかかっちまったけどそのこと謝りに来た。あと……もう一つ…」
俺は大きく深呼吸してまた墓石を見る。
「…………俺は、お前のこと好きだったんだよ。もうおせぇけどさ。」
ずっとお前が死んだことを受け入れられなくて、5年も経ってしまった。
東のことを好きになってから今までずっと伝えたくて…でも、伝えられなかったこと。
好きで好きでたまらなくて、でも言い出せなくて…。
結局は言う前に好きだった相手はいなくなってしまって。
それでも、ずっと思い続けていたこと。
「好きだよ夕陽。まだ、お前のことが好きだ」
ザァァアアア
俺がそう言ったと同時に急に風が吹いて、木々がサワサワと音を立てた。
まるで……………今はもう、いないはずの彼が答えてくれているようで…年甲斐もなく泣きそうになる。
「はは…変わらねぇな俺ら…。」
すれ違って…通じあって…。
何もかも繋がっているのだろうか。
お互い顔を合わせれば憎まれ口を叩いていた。それでもそんな時間が俺は好きだった。 ただ、ひたすらにお前のことが好きだったんだ。
きっと一生変わらない。
だから失った恋をどうかもう一度取り戻しに行くから…。
天国で待っていて欲しい。
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