転機

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 頭にモヤモヤが残ったまま、自分の部署へ戻った。 「じゃあ、今日はこのデータを打ち込んでください」  部長から指示をされ、自席にあるパソコンに向かって、淡々と打ち込む。  天宮、俺のこともう覚えていないのか?  それとも……。  それから二週間は同じ仕事。  資料をひたすら打ち込み続けた。  打っても打っても終わらない資料の山。  さすが有名メーカーって感じがするな。  天宮とは社内で時々すれ違うことがあったが、軽く会釈をすると向こうも返してくれるくらい。会話ができそうな雰囲気ではなかった。  俺は、ずっとお前に謝りたいことがあるのに。  高校の時、突然転校してしまった天宮。  もう一度会えたらどうしても伝えたいことがあった。  はぁ……。  何年か経てば話せるチャンスが訪れるんだろうか?  終業時間になり、皆定時で上がっていく。  俺も帰宅しようとした時 「すみません。誰か俺の資料の打ち込み、手伝ってくれる方いませんか?」  部署内が急にシーンとなった。 「すみません。子どもが熱を出したみたいで。妻は今日は実家に帰っていて俺しかいなくて……。明日までの期限なんです。誰か手伝ってくれる方、いませんか?」  挨拶しかしたことがない高木(たかぎ)さんだ。  部長がそれを聞き 「どうして早く言わなかったんですか?」  咎めている。 「今日自分が残業をすれば終わる量だと思ったので……。申し訳ございません」 「誰かいませんかー?」    部長がブース中に聞こえるような声を出すが、誰一人として返事をしなかった。  そして部長も代わりにやろうって気持ちはないんだな。  俺でもできる作業だろうか。一人暮らしだし、彼女もいない。帰りが遅くなって心配する人なんていないし。 「あの、俺でもできる仕事だったらやります」  俺一人だけが挙手をした。 「できます。単純な作業なので……。ありがとうございます!」  頭を思いっきり下げられた。  そのやり取りを見て、自分は関係ないとばかりに他の職員は続々と帰宅をする。 「お疲れ様ですー」  本当にあっさりしている人たちだな。  高木さんに作業を教えてもらう。  量も思ったより少ないし、単純な作業だから数時間くらいの残業で終わるだろう。 「ありがとうございます。今度何かお礼をしますので」 「いえ、困った時はお互い様ですから。娘さん、熱、下がると良いですね」  高木さんが「ありがとうございます」と言ってくれた時の顔は、嘘偽りのない「ありがとう」を感じた。  娘さんのこと、大切なんだな。
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