転機

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「結果については郵送になります。一週間以内には届きますので、よろしくお願いします」 「ありがとうございました。失礼いたします」  一礼をして、退席した。  あぁ、突っ込んだことも聞かれなかったし、落ちたかな。新しいところ、探さなきゃ。今の俺にはハードルが高すぎる会社だったし……。福利厚生、年間休日、他諸々しっかりしてたもんな……。    会社を出て背伸びをする。  昼食も食べる気がしない、家に帰ってとりあえず寝よう。  こんな生活が続いていた。  一方――。 「失礼いたします」  先程の面接官の一人がとある人物の元へ報告に訪れていた。 「どうぞ」  返答があったため、部屋に入る。 「先程、全員面接が終わりました。私たちの方で人事については決定させていただいてもよろしいでしょうか?副社長」  副社長と呼ばれた男は、二十代前半にも見える若い容姿。肌は白く、丸顔、目は大きくくっきりしている。髪の毛も少し明るく染めていて、毛先が少しハネている。女性社員からはその地位とルックスで人気があるだろう。  椅子に座り、他の資料に目を通していたが一度読むのを止めた。 「すぐ戦力になるような人はいましたか?」  綺麗な容姿には似合わない威圧感が彼にはあった。 「えっ、あっ、はい。申し訳ございません。何年か育てれば将来が見えてくるような方はいましたが。すぐ期待できるような方はいませんでした」 「そうですか。では、そちらで決めていただいて構いません」 「承知いたしました」  頭を下げ、部屋から出ようとした時だった。 「すみません。履歴書だけ一応目を通してもいいですか?今日中には確認してお返ししますので」 「はい。では、終業前にもう一度こちらへ伺います」  パタンと扉が閉まった。  いつもなら人事へ任せているが、なぜか今日はどんな人物が面接に来たか見ておきたかった。自分でも不思議だと思いながら、人事のチーフが置いていった履歴書に目を通す。  履歴書を確認していくが、結局気になる人物はいない……。  やはり採用は人事に任せようと思ったその時、最後の履歴書で手が止まった。 「えっ……。葉月壮馬(はづきそうま)……?マジかよ」  これが彼の素なのだろう。  誰もいなくなった副社長室。先程とは違う声音で彼はそう呟いた。
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