彼のためにできること

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「そんなことない。とりあえず、ソファーに戻ろう?」  彼はソファーに座ると 「退院してから数日は実家に帰ったんだけどさ、なんか落ち着かなくて。一人の方が楽って言うか。過労と軽い栄養失調ってことだけだったから、医者からも安静にしてちゃんとご飯食べれば治るって言われて。結局、このマンションに帰って来たんだけど、それから毎日彼女が来て。カギは勝手に母さんが渡したらしくてさ。前も少し話したけど、あの子、父さんの紹介なんだ。だから向こうもお嬢様。家事とか普通にできるし、綺麗だなって思うけど、俺は彼女に対して恋愛感情はない。親から言われた通りに付き合っただけ。彼女と居ても楽しいと思わないし、興奮もしない。向こうは身体の関係とか求めてくるけど、俺の身体が反応しないからいつも途中で終了って感じ」  悠の表情は暗かった。 「俺が会社を継ぐってことは昔から覚悟してた。俺も父さんの仕事しているところ好きだったし、うちの会社が嫌いってわけじゃないから。親の敷いたレールに乗るのには抵抗はなかった。でもまさか結婚相手まで勝手に決められるとか、そこまでは考えていなくて。向こうも親からの指示なのに、なぜか好かれた。最初は演技かと思って親に反発するつもりで、愛情もないし別れようって伝えたんだけど、一向に引いてくれなくてさ?別れたくても別れられない」  自分のことを話そうともしなかった悠が、淡々と伝えてくれる言葉には重みがあった。  そして彼は深呼吸を一度して 「……。俺さ、実は十年前から好きな人がいるんだ。一回フラれて、ずっと片想いなんだけどね」  そう言った。
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