天国への道

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ここは、どこだ……。 地の最果て、なのか……。 僕は、もう長いこと歩き続けていた。 自然という自然は、どこにも存在しない。 枯渇した大地。 荒涼とした風景。 広大で終わりのない、地割れした大地を ひたすら前へ進み続けている。 旅の途中、僕はこの地に迷いこんでしまった。 喉が渇いた。水が飲みたい……。 オアシスは、どこにあるのだろう。 彷徨いながら進んでいくと、 道の分岐点にたどりついた。 右はギザギザ。 左はクネクネ。 さて……どちらに進むべきか。 立ち止まっていると、空から突然神様が舞い降りてきた。 「いいことをお教えしましょう」 目の前に降りてきた神様は、阿修羅の手をうごめかせ、複数の腕の一本を僕に伸ばした。 「右は天国、左は地獄」 不思議な手が左右の道を順に指す。 「右へ、進んだ方がよろしいですよ」 神様は穏やかな声で柔和に微笑んだ。 危なかった……。 僕はいま、左へ進もうと考えていたのだ。 だが――。 この神様、信用していいものか……。 ピンチのときに突然現れる救世主。 (怪しい……) 初対面の相手をそうやすやすと信用してはいけない。 騙されないぞ。警戒心を強く持って、僕は神様に直球で尋ねた。 「あなた……僕を騙そうとしていませんか」 うまい話には裏があり、悪い目に遭うのがオチだ。 「本当は悪魔なんでしょう……狙いは何ですか」 すると神様は表情を変えることなく、僕を安堵させる優しい声で答えた。 「愚かな旅人よ。左の道をよくごらんなさい」 よく確認していなかったが、遠くまで目を凝らしてみると、左の道は途中に大きな穴ぼこが空いていた。 「これは危ない……僕、落ちてしまうところでした。それじゃあ……あなたは本当に神様なのですね」 「そうです。あなたが道を誤ることなく、しかるべき地へたどり着くよう導いているのです。さあ、私とともに右の道へ」 信用した僕は、言われたとおりに右へ進んだ。すると不思議なことが起きた。 「わわっ、これはなんだ」 踏み出した足が、ふわふわと宙を歩き出したではないか。 「下を歩く道はフェイクです。天国行きの道は、空中に存在しているのですよ」 これは……教えてもらわねばわからない。 どこまで歩いても終わりがないわけだ。 右が『秘密の道』へ通じていたとは。 俄然、踏み出す足に力が入る。 一歩ずつ進むたび、体が空へ近づいていく。 これが、天国への道というものか。 だいぶ高い位置まで着いたころ、僕を誘う神様が足元を指さした。 「さあ、旅人よ。真下をごらんなさい。あなたが進もうとした左の道が、いかに地獄であったのかおかわりでしょう」 言われたとおり下をのぞくと、僕が歩きつづけていた道の全貌が現れた。 「こ、これは……」 あの二手に分かれた道の先は、巨大な迷路になっていた。 さらに歩を進め、もっともっと高い位置から全体を見下ろすと、その大地の正体は大きな球体であることがわかった。 「あれは無限ループの地獄道で覆われた『メロン』という世界です」 僕は恐怖を覚えた。 メロン……何という得体の知れない響きだ。 地割れした道が迷路のように入り組み、 迷いこんだ者を永久に彷徨わせる、 謎の世界・メロン……。 神様は嘘などついていなかった。 僕を地獄から救い、天国へ導こうと、 善意の御心で手を差し伸べてくださったのだ。 疑うなんて、罰当たりだった。 「神様、救ってくれてありがとう。あなたは命の恩人です」 神様は再び、柔和に微笑んだ。 「ところで……天国にはあとどのくらいで着くのですか」 「もう間もなくです」 そのとき、僕の足に何かが絡みついた。 「糸……」 そして、神様はなぜか阿修羅の手で僕の体を押さえつける。 「しめしめ。うまそうなコバエだ」 いただきます。 ーーーー そして僕は、 神様(クモ)によって、 天へと召されたのだった――。
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