その結果、泡だらけのビールを飲む羽目になりました

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 元彼こと山崎圭司(やまざきけいじ)は、美亜が派遣社員に落ち着くまで働いていた居酒屋のバイト仲間だった。  彼はミュージシャン志望で、万年金欠。でも語る夢は一丁前。キラキラ女子を夢見るド田舎出身の美亜が、絆されてしまったのは仕方が無かったことではあるが、一生の汚点である。  しかもこの男、別れてからも金を無心する最低な人種だった。 「お、ビールじゃん。ってことは給料日だろ?」 「……違うもん」 「へぇ。お前、金ラベルは給料日にしか飲まないって言ってたのに、随分羽振り良くなったな。ってことはーー」 「貸せるお金なんてないよ。ってか、いい加減、貸したお金返してよ」  すっぱり美亜が遮れば、圭司は露骨にムッとした顔になる。 「はぁ?貸した??馬鹿言うなよ。アレは俺に対する投資だろ?ケチ臭いこと言ってんじゃねえよ。それに俺は貸してくれなんて一言も言ってないぞ。お前が勝手に札を押し付けたんじゃん」 「なっ……っ!?」  あまりの言葉に美亜は目くじらを立てた。盗人猛々しいとはまさにこのこと。  啞然とする美亜に更に圭司は言葉を続ける。 「美亜さぁ、貴方の夢は私の夢だって言ってたよな?アレ嘘だったわけ?そんなわけないよなぁ。一生俺の一番のファンでいるって言ってたよな?今更ナシは無いよな?ってことで、とりあえず3万くれ」 「は?」  黒歴史を語られた挙句、最終的に強請られた自分は世界で一番恥ずかしい存在だ。  美亜は一先ず周囲に人がいないか確認する。このご時世、どのタイミングで拡散されるかわからない。  幸い通行人はゼロ。そんなわけで、美亜はうんざりした表情を浮かべて口を開いた。 「3万くれって馬鹿なの?冗談じゃないわよっ。確かに世間知らずの私はあんたを応援してたけど、結局、あんたは口先だけの男だったじゃん!」 「は?俺、ライブやってるじゃん」 「来客が会場の半分にも満たない、しょっぼいライブをね!」 「ふざけんなっ。それは他のメンバーが悪いんだよっ」 「あんたのギターが下手だからでしょ!?ってか、いい加減、コード覚えたの?」 「知ったようなこというなよ!あのなぁ、ギターは感性で弾くんだから、コードなんて覚える必要ないんだよっ」 「それアルファベット覚えなくても、完成で英文書けるって言ってるのと同じじゃん!基礎できていないのに、偉そうなこと言わないで!あとお金はもう貸さない。それよりこれまで貸したお金返してよ!」 「だぁーかぁーらぁー、あれはお前が勝手にくれたやつだろっ」 「馬鹿なこと言わねぇで!」  もういい。本当に馬鹿馬鹿しい。こんな奴に構っていられない。  不毛な言い争いより、冷たいビールを選んだ美亜は青筋を立てたまま歩き出した。しかし五歩足を進めた時、 「おいっ、とにかくお前は黙って金出せばいいんだよ」  耳を疑う台詞と共に、エコバックを取り上げられてしまった。バックの中にはビールが2本とつまみが2種類。あと、お財布。 「ちょっと返してよ!」 「うるせぇ!」  当たり前のようにバックから財布を取り出した圭司は、これまた当然のように札を抜こうとする。  応援できるほどの価値なんてない男に、汗水たらして稼いだ給料を誰が渡すものか。 「おめぇこそ、うるさいっ!はたくぞ!!」  美亜は全力で体当たりをして、圭司の鳩尾をぶん殴ると財布を取り返した。  そして地面に投げ捨てられたエコバッグを拾い上げると、全力疾走した。
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