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 空は西のオレンジ色からグラデーションを作り、深く吸い込まれそうな群青色で塗りつぶされていく。春が近づくにつれて夕日が差す時間が長くなり、冷えた空気も和らいでくると、感傷に浸りやすくなるのかもしれない。  本宮大雅は、左肩にかけたスポーツバッグと通学バッグにいつも以上の重さを感じていた。  高校に入学してもうすぐ1年が終わろうとしている。高校の柔道部では同じ1年には大雅に勝てる者はいない。今日は2年生の先輩が練習相手になった。全国大会の出場が中学生のころから常連の先輩に、大雅はひたすら投げられ続けた。自分よりも身長が低く、体重も軽い先輩にあしらわれて、部活からの帰り道ではため息しか出てこない。  家の最寄り駅で、まだ先の駅へと帰る同じ部の同級生と別れ、1人電車を降りた。  駅前の商店街を抜け、近道をして帰ろうと細い路地へ入った。オレンジ色が滲んでいた空は群青に染まっている。街灯がつくほど暗くないようで、夕闇の時間は視界が不明瞭だ。大雅は疲れた体に気合を入れてバッグをかけ直し、子どものころから慣れた道を急ぎ足で進む。  小さな公園の敷地の端にさしかかったとき、複数の男の声が聞こえた。 この周りの住宅は年配の住人が多く、子どもが少ない。そのせいか公園からは古くなった遊具が撤去され、日中は年配者が集まってゲートボールをしている。しかし、空が暗くなってくるころには、ほとんど誰も寄り付かないはずだ。  公園の敷地に沿う道を進み、聞こえてくる声に耳を傾ける。 「なんで俺らに呼び出されたか、わかってるよな」 「ええ、わかんないよ。俺、男からもモテるようになった?」 「俺の彼女に手ぇ出しただろっ」 「出してないよぉ。女子の方から声かけてきたから拒まなかっただけだってば」  公園の入り口に差しかかって、何となく足を止めた。不穏な雰囲気を感じるものの、文句を言われている男はのんきな口調だ。声しかわからないが、食ってかかっている男たちとかなり温度差があるようだ。 「はぁ!? ふざけんなよ。俺だけじゃなく、ここにいる奴ら全員お前に彼女とられてんだよ」 「ええ、ダサすぎ」 「お前、調子にのんなよ」  誰かが吐き捨てるように呟くと同時に、誰かが殴られたような音がした。話し合いで終わるなら立ち去るつもりだった。大雅は男たちがいる場所へ向かって走り出した。  「お前ら、何してんだ」  こちらへ背中を向けている男数人に向かって叫ぶ。  トレーナーパーカーや、ブレザーにマフラーを巻いたりした男たちが振り返るころには、大雅はバッグを地面に落として、その男たちの間をすり抜けていた。
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