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 囲まれている学ラン姿の男を庇うように立ち、囲んでいる男たちを見回した。他校の生徒らしい。そのうちの1人が一歩前に出て、大雅を見上げてきた。 「邪魔すんなよ。弱い者イジメじゃねえんだから、そこどけよ」  大雅は後ろに隠した男を振り返る。切れた唇を手の甲で拭きながらもニヤニヤとしている。見たことのある顔だと思いながら、取り囲むように立つ男たちのほうへと顔を戻した。 「そうかもしれないけど、数人で寄ってたかってっていうのは、どうなんだろな」  学ランを脱いで、中に着ている白シャツの袖をまくる。鍛えているのが丸わかりな大雅の腕を見た男たちは後退りし始めた。 「わかったよ。おい、お前。これ以上、あちこちで女に手を出すなよ」  大雅の肩に後ろから手が乗り、少し体をずらされた。振り向くと、男が肩に顎を乗せてきた。 「そんなに目を吊り上げてたら、女に浮気されんの当たり前だよぉ」  大雅は軽口をたたく男の頭を押して肩から顎を下ろさせた。地面に投げたスポーツバッグからウェットティッシュを取り出して彼に差し出す。それを受け取った男は切れた唇にあてて、顔をゆがませた。 「ありがとな。えっと、3組の本宮大雅だよね。俺……」  大雅は地面に置いたままのスポーツバッグと通学かばんを持って、男の顔を見る。 「ああ、知ってる。1組の相沢光希だろ」 「俺のこと知ってんのに助けたの。珍しい奴だね。たいていは自業自得だろって言ってくるのに」  おもしろいものを見るように見つめてくる光希の目に吸い込まれそうになる。サラッとした茶髪をかけた右耳に街灯があたり、ゴールドのリングピアスが光っている。  大雅は短髪の頭を雑にかきながら脱ぎ捨てた学ランを拾って羽織った。 「相沢だからとか、相沢じゃないからとか関係ねえ。理由はともかく、寄ってたかって1人に殴りかかろうとしてたから止めただけだ。あと、ちょっとモヤってたから。じゃな」  左手で持ったスポーツバッグと通学バッグを肩にかけ、光希に背中を向けた。歩みだす方へ体の重心を傾けようとしたとき、肩をつかまれて後ろを振り向かされた。足で体を踏ん張って引っ張られた方へ顔を向ける。目の前に光希の顔があることに気づいたときには、頬に柔らかい感触があった。  体を硬直させた大雅が口を開いたまま、視線を光希へ向ける。大雅の肩をつかんだままの光希が小首をかしげていた。 「お礼だよ。なんで固まってんの。俺からのキスって男にも喜んでもらえるんだけど、ダメだった?」  大雅は体をゆすって光希を自分から離れさせ、唇があたったらしい右頬に手をあてる。何かを言おうにも口がパクパク開くだけで声にならない。目を丸くした光希が口元に手をあてた。 「へえ、噂は本当なのかな。スポーツマンの本宮くんは、恋愛関係は硬派を通り越して超真面目って」  大雅はニヤニヤしている光希の顔を睨みつけるように見て違和感を覚えた。思わず眉間にしわが寄る。 「気持ち悪いな、その作ったような表情。さっき、『俺のこと知ってて助けるなんて』って言ったときは自然だったのによ」  触れるくらい近くにある光希の顔をのぞき見ると、こめかみのあたりがピクピクと不自然な動きを見せた。光希が何か言いたげに口を開けたとき、軽快な音が鳴り響いた。大雅が光希から視線を外して、ズボンのポケットに手を入れる。取り出した携帯電話の画面を見て、大きく目と口を開いた。 「もう20時じゃねえか。小1の弟と風呂に入る約束してたの、忘れてたわ」  呆然とした表情の光希に手を振り、大雅は家に向かって走り出した。
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