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 春の陽気が感じられるようになったこの時期、体育の授業で体を思いっきり動かした後、学ランをキッチリと着るのは辛い。  大雅は学ランの前を全開にして、中に着ているカッターシャツも2つボタンを開けている。左隣りを歩く小崎健吾は、詰襟の部分だけ開けて着ているのが、がり勉風の黒縁眼鏡に似合っている。大雅の右側にいる畠田雪人は学ランを第三ボタンあたりから留めて、自分の襟元をつかんでシャツと体の間に風を送り込んでいる。  体育館から渡り廊下を通って校舎に入る。階段を上り、4階にある1年のクラスが並ぶ廊下にさしかかった。1組の前の廊下で、光希が派手めの男子や女子に囲まれて立っている。窓の桟に腰をもたれかせて、スマイルという名の仮面を貼りつかせていた。雪人が大雅の肩に手を置いて、あごで光希たちを示す。 「相沢って必ず数人に囲まれてるよな」  大雅をはさんで歩いている健吾が反応した。 「あれ、親衛隊だよ。女子は相沢の彼女の座を狙ってて、男子は彼氏の座を狙ってるか、相沢の周りに寄ってくる女子を狙ってる」  健吾の言葉に目を丸くした大雅が、健吾を雪人と自分の間にはさんだ。 「彼氏ってマジかよ」  健吾が大雅をにらみつけるように見上げた。 「何?変だって言いたいのかよ」  雪人が苦笑いしながら、大雅と健吾の肩をたたく。 「まあまあ、変だって言いたいなら、健吾が大学生の男と付き合い始めた時点で言うだろ」  大雅も自分の肩あたりにある健吾の頭を撫でた。 「悪い。そうじゃなくて、女子と付き合える男のことを好きになる男がいるんだって驚いたんだよ」  健吾は大雅を見上げて、わざとらしく口をへの字にした。その顔を見て、大雅も雪人も笑い出す。つられるように健吾も笑い出した。  他愛もない話をしている間に、気づくと1組の前の廊下にさしかかっていた。大雅は何となく光希のほうへ顔を向ける。貼りついた表情のまま、彼は大雅を見ていた。視線が絡んで、光希が口を開きかける。大雅は目を細めて、光希から視線を外した。 「腹減ったなあ。2限目に体育っておかしいよな」  雪人が健吾の頭の上から大雅の肩をたたく。 「次の休み時間に早弁すればいいじゃん」  頭の上に乗る雪人の腕をうっとうしそうに健吾がはらった。 「その代わり、昼飯は購買に買いに行かなきゃね」 「それは面倒くせえから、昼休みまで我慢するわ」  何となく気になって大雅は後ろを振り向いた。窓にもたれたままの光希が無表情でこちらを見ていた。
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