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 4限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、数学の教師がホワイトボートに書かれた文字を荒っぽく消して、教室を出ていった。  大雅は机に突っ伏して廊下側の壁に顔を向け、空腹が過ぎて焦点の合わなくなった目をそのままに呆然と壁を見ていた。突然、上から声が振ってくる。 「も、と、み、や、た、い、が、くん。昼メシ、一緒に食べよーよ」  声の響きに、大雅は大きく目を見開いて、勢いよく頭をあげた。廊下にいる光希が窓から大雅をのぞきこんでいる。  朦朧としていた意識がハッキリしだすと、周りの黄色い声が耳に入ってくる。女子たちが光希のことを遠巻きに見て噂しているようだ。 「ねえ、光希くん。良かったら、一緒にお昼食べない?」  いつの間にか大雅の席の近くまで来ていたクラスメイトの女子が光希に話しかける。1人では心細いのか3人並んで光希を見つめている。その顔は不安と期待が入り混じり、青春を謳歌しているのをありありと感じさせた。  女子たちと光希の会話の邪魔にならないように、大雅は大きな体を小さく丸めて椅子を引く。立ち上がって席を離れようとしたとき、光希に腕をつかまれた。 「ごめんね。俺、大雅くんと昼メシ食べるんだ」  自然と口が開いた大雅は間抜け面のまま、光希を見る。絵に描いたように白い歯を輝かせ、ウィンクをするところを見て、大雅は表情を消した。 「作りすぎだろ」  心の中でつぶやいたつもりが声に出ていたようで、光希の目から星がほんの一瞬だけ消えた。その後、しっかりと目を合わせて見せてきた能面のような笑顔に興味を覚え、大雅は反抗することなく、光希のいる廊下へと出た。  チャイムが鳴ると同時に購買へ走っていった健吾と雪人とすれ違う。大雅は2人に軽く手を振って、先を歩く光希の後ろを追った。  人のあまり来ない特別教室が並ぶ棟へと移動して、階段を上がる。光希は大雅より数センチ低そうだが、柔道で鍛えている大雅とは違い、スラっとしている。  光希は屋上に出る扉の前の踊り場で足を止めた。その踊り場は少し横によければ、階段下を通る人たちからは見えない。特別教室棟ということもあり、通る人も少ないだろうから、静かな時間を過ごせそうな場所だ。  光希が壁にもたれるようにして座ったのを見て、大雅も隣に腰を下ろす。紙袋から弁当箱を出し、包んでいるナフキンを外しながら、光希の顔を見る。先ほど教室で見せていた輝くような笑顔は消え、作られていない自然な顔があった。何か考えているようにも見える。
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