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 大雅は弁当箱の蓋を開けて、玉子焼きを箸でつかんだ。 「俺に何か用があったんだろ。何だよ」  光希は購買で買ってきたらしい焼きそばパンを頬張り、小動物のように咀嚼している。紙パックのオレンジジュースを一口飲んだ。 「あー、うん。昨日はありがとね。ああいう場面で助けに入ってくれる人って初めてなんだ。だから、嬉しくて、テンション上がって、ついキスしちゃった。」  大雅は顔に熱が帯びるのを感じた。火照ってきた頬を、箸を持ったまま手の甲で触れ、浮かんでくる記憶を振り切るように頭を勢いよく横に振る。 「そんな話か。それは、もういい。それより、お前、なんなんだよ、その顔。今は自然だけど、休み時間に廊下で会ったときも、さっき女子たちと話してる時も作りすぎてて気味悪いわ。ま、昨日、言い逃げした形になっちまったけどさ」  ストローに口をつけたまま大雅の言葉を聞いていた光希が自然に頬を緩ませた。 「そうそう、それも聞きたかったんだよね。誰も俺の表情になんか気づかないのに、なんでわかったの」  大雅は大口を開けて放り込んだ唐揚げを5回ほどの咀嚼で喉に押し込む。 「俺が先に質問してんだけど」  自分は答えないと言わんばかりに、光希は焼きそばパンにかじりついている。大雅は紙袋から小学生の顔くらいあるおにぎりを1つ出して巻かれているアルミホイルを剥いた。 「わかったっていうか。そんな気がしただけだ」  大雅はおにぎりを頬張る。 「たぶんだけど。弟が何を思ってるかとか、どんな気持ちかとかを汲んでやろうと表情を読む癖がついてるのはあるかもな。俺の弟って小学1年なんだよ。9歳離れてる。まだ、自分の思いとか考えを正確に伝えられないんだわ。小学校に入ってだいぶマシになってきたけどな。で、なんでそんな作った顔するんだ」  大雅はおにぎりを半分口に入れた。口からはみ出そうになるご飯粒を手で押さえ、顔の下半分を大きく動かす。その様子を見ていた光希は、顔をゆがませている。笑いたいのか、食べっぷりに引いているのかわからない。 「うーん、笑ってると人が嬉しそうに寄ってくるんだよね。ヘラヘラしてたら、あんまり絡まれないし」  大雅は2個目のおにぎりにかぶりつく。 「あんまりって、少しは絡まれてるんじゃねえか」 「なんか、俺の顔が気に入らない人がいるんだよね」  咀嚼していたおにぎりが塊で喉に流れてしまい、大雅は大きく咳き込んだ。
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