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「げほっ。あのな、顔っていうより、お前の軽い言動が気に入らないヤツがいるんだろ」  光希は焼きそばパンを食べ終え、玉子サンドの包み紙を外し始めている。 「あー、そうなのかな。あ、昨日のね、彼女取られたって言ってたけど、取ってないはずだよ。だって、俺、声かけてくる女子には必ず言ってるもん。彼氏いるとか勘弁してよって」  大雅はため息をつきながら、紙袋からペットボトルを取り出して蓋を開ける。 「まあ、もう何でもいいわ。お前の思うようにしてろ」  吹奏楽部が昼練をしているのだろうか、ピアノとトランペットのバラバラな音が階下から上がってくる。 光希が前かがみになり、斜め下から見上げてきた。 「俺、大雅くんと仲良くなりたいんだよね、ダメかな」  大雅が目を丸くすると、光希は首をかしげた。大雅は唐揚げを2個まとめて口に放りこみ、残り少ない弁当を平らげることを優先した。  音出し練習のような楽器の音をBGMにして、2人は無言で食べた。  最後の一口、ご飯を口に入れた大雅は弁当箱の蓋を閉じ、それをナフキンで包む。玉子サンドを全て口に入れ、玉子が手についたのか指をなめる光希を、大雅は横目で見る。 「なんか拍子抜けしたんだよ。仲良くなりたいけどダメかなって、聞かれるとは思わなかったからな。だって、お前、昨日は礼だっつってキスしてくるし、今日は今日で、いきなり一緒に昼メシ食おうって誘いにくるし、それにもう俺の名前で呼んでるだろ。そんな馴れ馴れしいヤツが、わざわざ聞くか? って驚いたわけ」  弁当箱を紙袋へ入れた大雅はペットボトルのお茶を一気に半分ほど飲んだ。光希はストローでオレンジジュースを吸い込んでいる。残り少ないのか、空気も一緒に吸い込む音が響く。ストローから口を離した光希が大雅の肩に手を置いてきた。 「で、仲良くしてくれんの。くれないの。どっち」  まっすぐに見つめてくる光希を見て、大雅は思わず噴き出した。  BGMのようだった楽器の音がオブラートに包まれたように霞がかって聞こえる。 「まあ、お前、面白そうだしな。仲良くしよーぜ」  光希は花が咲いたような表情をして、お互いの鼻がぶつかりそうなほど顔を近づけてくる。大雅はその頬を平手で両側から挟んで、自分の顔から離させた。 「近いんだよ」  両頬を挟まれているせいか、自分でも表情を作っているのか、光希は口をとがらせている。 「仲良くしてくれるっていうから、口にキスしようかと思ったんだけど」  校舎に鳴り響く5限の予鈴を耳にしながら、大雅は頭を抱えた。
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