最終話 太陽の色

1/1
前へ
/10ページ
次へ

最終話 太陽の色

「離れて暮らして、何年が経ったの?」 「3年、ですね」 あの時と同じ綺麗な月明かりだ。 砂浜を二人で歩いて、夜の潮風にあたる。 夜は特に波の音が感じられて神秘的な気持ちになった。 「3年もの間、どうしてたの?」 「毎月、様子は見に来てたんですけどね」 「えっ!」 「というか、毎回、会って話そうって思っては、二の足を踏む、を繰り返し、はや三年って感じでしょうかね」 「平安時代の公家もびっくりね」 「通い婚ですか?僕の場合は遠くから見てるだけでしたけどね」 「気配も感じなかったけど」 「昨日の晩も、やっぱり二の足を踏んで帰るところでした」 「うん」 「けど、お酒を飲んじゃったんです何故か」 「そうみたいね」 「なんかこう、酒の力を借りたらなんとかなるんじゃ?とか思ったりして」 「なんとかなったみたいね」 「違う方向で発揮されましたけどね」 「あなたを見ても、もう、辛い気持ちにはならなさそうよ」 「まだ一緒に過ごして数時間なのでわかりませんよ」 「思い出しちゃった、さっき、全部」 「全部?」 「そう、コーヒーの香りなのか紅茶の香りなのか、はたまたアロマキャンドルの香りなのか、きっかけはわからないけど」 「いい思い出からどんどん思い出されて、辛い思い出も思い出したんだけど、、それと」 「それと?」 「今日、剣司と過ごしてて、とっても楽しかったなぁって思ったから」 「いま、剣司って言いました?」 「記憶が戻った証拠かな」 月が雲に隠れて、二人の影が重なり、闇に溶けていった。 「私の記憶が戻らなかったらどうしてたの?」 「僕は、すみれさんとでないと無理なので、何度でも新しい朝をやり直しますよ」 どうして彼のことを忘れてしまっていたのだろう。 涙が溢れて止まらなかった。 「ねぇ、、、太陽って何色なの?」 「それは、、、二人で確かめにいきましょう」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加