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最終話 太陽の色
「離れて暮らして、何年が経ったの?」
「3年、ですね」
あの時と同じ綺麗な月明かりだ。
砂浜を二人で歩いて、夜の潮風にあたる。
夜は特に波の音が感じられて神秘的な気持ちになった。
「3年もの間、どうしてたの?」
「毎月、様子は見に来てたんですけどね」
「えっ!」
「というか、毎回、会って話そうって思っては、二の足を踏む、を繰り返し、はや三年って感じでしょうかね」
「平安時代の公家もびっくりね」
「通い婚ですか?僕の場合は遠くから見てるだけでしたけどね」
「気配も感じなかったけど」
「昨日の晩も、やっぱり二の足を踏んで帰るところでした」
「うん」
「けど、お酒を飲んじゃったんです何故か」
「そうみたいね」
「なんかこう、酒の力を借りたらなんとかなるんじゃ?とか思ったりして」
「なんとかなったみたいね」
「違う方向で発揮されましたけどね」
「あなたを見ても、もう、辛い気持ちにはならなさそうよ」
「まだ一緒に過ごして数時間なのでわかりませんよ」
「思い出しちゃった、さっき、全部」
「全部?」
「そう、コーヒーの香りなのか紅茶の香りなのか、はたまたアロマキャンドルの香りなのか、きっかけはわからないけど」
「いい思い出からどんどん思い出されて、辛い思い出も思い出したんだけど、、それと」
「それと?」
「今日、剣司と過ごしてて、とっても楽しかったなぁって思ったから」
「いま、剣司って言いました?」
「記憶が戻った証拠かな」
月が雲に隠れて、二人の影が重なり、闇に溶けていった。
「私の記憶が戻らなかったらどうしてたの?」
「僕は、すみれさんとでないと無理なので、何度でも新しい朝をやり直しますよ」
どうして彼のことを忘れてしまっていたのだろう。
涙が溢れて止まらなかった。
「ねぇ、、、太陽って何色なの?」
「それは、、、二人で確かめにいきましょう」
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