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第二話 ドメスティック
「助けて!」
玄関から女性の悲鳴。
彼女はまた裸足で入ってきた。
「亜美さん、その傷!」
唇は切れ、血がついていた。
身体中が痣だらけで髪は乱れ、涙声で鼻は真っ赤だった。
「とにかく、中に入って」
ドアの鍵を閉めると、ひとまず亜美をかくまった。
「また殴られたの?」
亜美をソファに座らせて傷の手当をしながらそう訊ねると、亜美は小さく頷いた。
「ねぇ、一度相談所へ行ってみたら?」
手当を終えると、隣に座って背中に優しく手を当てる
「でも、、私が悪いから、、私がちゃんとできてないから、、」
そう言って自分を責め始める亜美。
「なにか飲む?コーヒーがいい?」
立ち上がるとまたヤカンを火にかけた。
2階から男が降りてきた。
「洗濯物、干してきました」
亜美は驚いて、身を竦める。
「あ、この人は大丈夫よ」
「あ、そしてこちらは亜美さんよ」
「あ、す、すみません、お邪魔してます」
「はじめまして、亜美さん、僕もお邪魔しています」
「なんだか今日はこんな感じなのね、、」
「そうだ、朝ごはんまだでしょ?何か食べましょう」
トーストと目玉焼き、コーンスープを3人分こしらえ、ヨーグルト、バターとハチミツとフルーツ、ジャムがテーブルを埋めつくした。
男はおなかが空いていたのか、オカワリまでしていた。
亜美がその様子を見て少し笑った。
「何日食べてなかったの?」
今度はチーズを乗せたトーストを焼き始めた
「覚えていませんが、このコーンスープの味は知っている気がします」
「あぁ、それは市販のやつをただ温めただけだから」
「すみれさん、いつもすみません、、いつも優しくしてくれてありがとうございます」
痛みに慣れてしまっているのか、痛そうな素振りもなく、目玉焼きを頬張る亜美。
「亜美さんは、暴力をふるわれてるんですか?」
男は単刀直入に亜美に問いかけた。
「暴力、、、というか、私が悪いので、私のせいで彼を怒らせてしまって、、」
「あなたは悪くないですよ、亜美さん」
「え?」
「あなたは悪くありません、何一つ」
「どうしてそんなことが言えるんですか?」
「万が一あなたが悪いことをしたとしても、暴力を奮われるのはちがいます」
「彼は、いつもは優しい人なんです、それなのに私が怒らせてしまうんです」
「怒るのと暴力を奮っていいはイコールではありませんよ」
「チーズトースト、食べる人〜」
「はい、いただきます!」
「あ、わ、私も食べたいです」
「それじゃ半分ずつにするわね」
ピンポーン♪
インターホンの音とともに、男の声。
「すみません、そちらに亜美がお邪魔してませんでしょうか?」
男の声に反応し、亜美が立ち上がった。
「待って」
「ちょっと静かにしててね」
二人にそう告げると、インターホンで応対する
「おはようございます、亜美さんですか?お見かけしてませんよ?いま、私、散歩から帰ってきたところで朝ごはんの支度中で、、」
少し忙しさをアピールするように早口で答えると、
「わかりました、もし、亜美が来たら帰るように伝えてください、失礼します」
と、礼儀正しく去っていった。
「帰ったみたいよ」
「あの、やっぱり、帰ります、すみれさんにまでご迷惑がかかりそうなので」
「帰ったら、また殴られるかもしれないのに?」
「ちゃんと謝ればきっと許してくれると思うので」
「チーズトースト、いらないんですか?」
男は残りのチーズトーストに手をかけた。
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第三話
バイオレンス
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