第三話 バイオレンス

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第三話 バイオレンス

「あの、もし良かったら、男性物の新しい下着とか服、持ってきましょうか?」 男の服のサイズがあきらかにおかしいので、事情を聴くと、すみれが朝からの出来事を亜美に話したので、亜美がそう提案した。 「亜美さんは自分の心配をした方が」 「僕はこのままでも大丈夫です、洗濯物もきっとすぐ乾くと思いますし」 「だけど、いつまでもこのままここにいる訳にも行かないので、戻りますね」 少しソワソワと落ち着かない様子で、 「すみれさん、ごちそうさまでした、美味しかったです」 深々と頭を下げると、意を決したように隣の家に戻って行った。 「もう10回は来てるし、間隔も短くなってるわ」 「様子、見に行きますか?」 「その格好で?」 「まぁ、非常事態ですからね」 「あなたも多分非常事態なんじゃないかなって思うけど」 「僕の非常事態は解決されました、ごちそうさまでした」 「空腹すぎて海で倒れてたとか、ないでしょ」 「暴力はいけません」 「たしかに」 「今なら僕がついてますよ」 「そうね、これも何かの巡り合わせなのかしら」 二人は、亜美の様子を伺うことにした。 玄関まで近づかなくとも、中の様子が伺えるほど、怒鳴り声と物がぶつかる音が聞こえてきた。 インターホンを鳴らしてみる。 怒鳴り声が止んだ。 「はい」 「あ、隣のすみれですが、亜美さん戻ってこられましたか?」 「はい、大丈夫です、ご迷惑をおかけしたみたいで」 「ちょっと亜美さんにお会いしたいんですけど、お邪魔しても?」 「後にしてもらってもいいですか?」 「近所の人が助けてって悲鳴を聞いたみたいで、警察に連絡しようとしてるので私が様子を見に来たんです」 玄関のドアが空いた。 「亜美さん!大丈夫?」 すみれに続いて、ちぐはぐな服を着た男も中に入っていった。 「すみれさん!どうして?」 「また殴られてるじゃない」 「勘違いですよ、俺は殴ってませんよ、亜美が転んだんです」 「もう、そういうのはいいから」 亜美をソファに座らせると、隣に座り 「少し、お話しませんか?」 女性だけならなんとかやり込めそうなものの、男がいるというだけで何も抵抗できず、ソファに座り込んだ。 「亜美さんが家に来るようになったのは随分前からなんです」 「ええ」 「亜美さんは最初は暴力を振るうことも暴言を吐いたりすることもなく、優しい人だったとあなたのことを話していました」 「亜美は、、亜美が以前付き合っていた男が、暴力を亜美に奮っていたんです」 「え?」 「その時、相談に乗っていたのが俺なんです」 「じゃあ、なんで?」 「よくあるパターンですよね」 「どういうこと?」 「今回の場合、自分が亜美さんを救ってやった、という意識から、もうすでに対等の立場にはなれてないんです」 「私、、実は、父からも虐待を受けていて、家を飛び出して、そこで出会ったのが以前付き合っていた彼で、」 「だから、いつも自分のことを責めちゃうわけね」 「俺は!本気で亜美を助けたいって思ってたんです」 「じゃあどうして元彼とおんなじ過ちを繰り返すのよ」 「それは、不幸なままの亜美さんでないと自分の存在価値が失われそうになるからですね」 「こんなつもりじゃなかったんです、亜美を幸せにしたいって思ってるんです」 「つまり、代理ミュンヒハウゼン症候群のようなもの?」 「代理ミュンヒハウゼン?」 「ミュンヒハウゼン症候群っていうのはね、たとえば、仮病を使ったりして、他人に構ってもらったり優しくしてもらう事に依存してしまう病のことで、代理ミュンヒハウゼン症候群というのは、たとえば、自分の子供を病気にさせて、それをかいがいしくお世話してる自分に存在価値があると勘違いしてしまうような、、迷惑な話しよね」 「病気、なんですね」 「そうね、だから治療が必要よね」 「2人とも、一度カウンセリングを受けてみては?」 「亜美、、俺、本当にごめん、、、自分でも冷静になったとき、こんな自分が嫌になる」 「ううん、私もごめんなさい、誰かに依存してしまうのは、育った環境のせいだって、逃げてたから」 「知り合いに、カウンセリングを紹介してくれる人がいるから、聞いてみるわね」 「すみません、、ありがとうございます、もう少しで取り返しのつかないことに、、、」 「そうだ、男物の下着、新しいのないかしら?譲って貰えるとありがたいんだけど、」 「ああ、それなら、出張用に買った下着と部屋着一式あるので、差し上げます」 「お金は払うわ」 「いいえ、亜美が色々とお世話になっているので、お礼させてください」 「じゃぁ、遠慮なく」 「ありがとう、恩に着ます」 「ありがとうすみれさん」 「関係が修復できるといいね」 着替え一式を貰って、二人はすみれの家に戻って行った。 「すみれさんの、彼氏?」 「すみれさんは、海岸で拾った人って言ってた」 NEXT 第四話 冤罪
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