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第四話 冤罪
「買い物に行こうと思うんですが」
「はい」
「とりあえず、怪我はなさそうだし、空腹も満たされただろうから、荷物持ちという役割をふろうと思います」
「なにを買うんですか?」
「食材とあと歯ブラシとかそういうの諸々?靴がないし、、」
「サンダルでも大丈夫ですが」
「それ私のだから!」
「洗濯物が乾いたら、おいとましますよ?」
「どこに?」
「いやー、まぁ、とりあえず警察に?」
「そうね、捜索願いとか出てるかもね」
「誰も僕を探してなかったらどうしましょう」
「結婚指輪してるのね」
「あ、ほんとだ」
「裏に名前とか刻まれてないかしら?」
「あー、なるほど」
男は指輪を抜いて文字を確かめた。
「K・Sって書いてるな」
「イニシャルかぁ」
「けん、、、しむら?」
「まさかのお笑い界のレジェンド?」
「ドリフターズですよね」
「記憶喪失って、どこまで覚えててどこから忘れてるの?」
「実は、記憶喪失のふりをしているんですよ」
「はぁ?なんのために?」
「いやーなんか楽しそうじゃないですか」
「全然楽しくないです」
ひと駅となりのショッピングモールへと向かうため、2人が歩き出すと、すっかり日は高くのぼり、空は青く、海の水面はきらめき、潮の香りがした。
「この時間でも結構人が多いのね」
駅のホームには電車待ちの人が列をなしていた。
「ひと駅だけで良かったぁ」
列の最後の方で、なんとか二人は乗り込めたが、少し離れた位置になった。
通勤時間なら、女性専用車両もあったが、さすがにこの時間はない。
休日のこんな時間に外に出ることはまずないので、とても非日常な感覚になった。
「きゃぁ!ちかん!!」
誰かが悲鳴をあげ、車内がザワついた。
声のする方を見てみたが、人の頭しか見えない。
「ちょっと!何触ってんのよ!」
「は?俺?俺は触ってねえよ!」
「わたし!この人が触ってるの見ました!」
どうやら犯人が特定されたようだった。
駅に着くと、周りの男たちが犯人らしき男をとりおさえ、駅のホームへ連れ出していた。
「大丈夫でしたか?」
「え?なにが?」
「あの人、触ってないと思いますよ、両手でつり革持ってましたし」
「は?それじゃ冤罪じゃない」
「でも、僕の見間違いかもしれません」
「無実を証明するのって難しいわね、見たって人もいたみたいだし」
「そうですね」
「電車の積載人数、制限すればいいのにね」
「人数、どうやってカウントするんですか?」
「エレベーターみたいに、足元にマークつけておいて、それ以上乗れない、みたいな?」
「その分車両増やすんでしょうか?」
「犯罪や被害者が増えるよりいいでしょう」
どうやら、示談で話が着いた様子だった。
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