第五話 予防線

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第五話 予防線

「えっと、まずは靴ね」 「はい、これでいいです」 「サイズ、、それ入らないでしょ?はいてみた?」 「いいえ」 すみれは店員に足のサイズを測ってもらうように頼んだ。 28cmの靴がちょうど良さそうだ。 「好きな色とかないの?」 「好きな色、、ですか」 男はしばらく考えて 「太陽って何色なんですかね」 「え?太陽??んーーーー、赤?いや、オレンジ?ん?黄色かな?え、ちょっと待って白っぽい?」 「これにします」 そう言って男が手に取ったのは、青いスニーカーだった 「サイズも良さそうね」 「このまま店を出ちゃったら犯罪ですかね?」 「そうね、間違いなく」 「うっかりには?」 「ならないと思う」 「代金はいつか必ずお返ししますから」 「そこは踏み倒したとしても目を瞑るから、支払い済まさせて」 買ったばかりのスニーカーでショッピングモールをひと通りまわると少し喉が乾いてきた。 「こんなとき、飲み物くらいご馳走出来たらいいのですが」 「そうね、喉乾いちゃった、少し休みましょう」 フードコートに入ると、家族連れやカップル、学生たちが賑わっていた。 「よかった、ただで水が飲めますね」 「水でいいの?」 「おいしいですよ、水、無味無臭ですが」 「そういえばなんでおいしい水っていうのかしら」 「不味い水はたしかにありますね」 「それなら、不味くない水、で良くない?」 「それはそうですが、あー不味くない!って飲むのと、あーおいしい!って飲むのとでは気分が違う気がしますね」 「なるほど」 「おいしい水をおかわりしてきます」 「あ、私の分もお願いします」 「荷物持ちがいると、たくさん買えて便利~」 四、五日分は買えただろうか、リュック二つ分と手提げ三つ分の荷物を持ち、帰りの電車に乗り込んだ。 「あ、、」 「ん?なに?」 「いえ、あの2人の女性」 「ん?」 視線の先には対角線上の端の席に座っている女性が二人並んで話しているのが見えた。 「可愛らしい女性たちね?知り合い?」 「知っている、といいますか、さっき痴漢騒ぎの中にいた被害者と証言者ですよね」 「え?!!」 そう言われてみると、さっきの二人に似てるかもしれない。 「ちょっと待って、それじゃグルだったってこと?!」 「まぁ、知り合いが証言者というのも有り得ますが、立ち位置的にも降りてからの様子を見ても赤の他人感を装ってましたけどね」 「よく見てるのね」 「僕の記憶が正しければ、ですけどね」 「あーー、そこはちょっと怪しいかもしれない」 「記憶力はいい方なんですけどね」 「信憑性にかけるわね」 「返す言葉もありません、すみません、警察にいきますか?」 「なんて言うの?さっきのチカン騒ぎは冤罪でしたって?」 「一応、そういうことがあったという事実は伝えておいた方が、次の犠牲者を生まずに済むかと」 「たしかに」 「これじゃ、怖くて満員電車がトラウマになりそうですね」 「そうでなくても満員電車には乗りたくないわね」 「先にお昼にしませんか?」 「あれ?もうそんな時間?」 荷物を片付け、昼食をとることにした。 「僕が作りますよ」 男は手際よく、支度をしていく。 「と言ってもナポリタンですけど」 冷蔵庫にあった残り物が、美味しそうなナポリタンに変身した。 「わぁ!美味しそうね!」 「お口に合うといいですが」 「いただきます」 フォークでくるくるとパスタを巻きとると、大きく口を開けて中へ 「ん!!!」 おいしいと言わんばかりに、左手の親指を立ててナポリタンを噛み締める 「美味しいですか?よかった」 男もナポリタンを頬張ると 「ん〜!!」 同じく親指を立てて喜びを分かちあった。 「料理できるんだ、記憶なくても」 「不思議ですよね、記憶って」 「まぁ、これまでの人生で起きたことすべて覚えてるわけではないしね」 「忘れた方がいいこともありますからね」 「まだ何も思い出せないの?」 「いや、なんか、少し思い出してきたみたいです」 「え?自分が誰だか思い出せたの?」 「ええ、まぁ、、」 「え?いつから?」 「指輪のイニシャル辺りですかね」 「結構早かったのね」 「ですが、本当にこの記憶が正しいのかどうかはまだわかりません」 「志村けんではないでしょ?」 「里村剣司でしたね」 「惜しい!」 「身分を証明してくれるもの、持ってなさそうね」 「ちょっとスマホ借りてもいいでしょうか」 そう言うと剣司は自分の携帯番号に電話をかけてみた。 「電源が入ってないと」 「海で無くしたとしたら、もう使えないわね」 「家は?」 「それが、、めちゃくちゃ遠いですね」 「え?どこなの?」 「大阪ですね、ここからだと3〜4時間はかかりそうです」 「はるばる、ようこそ」 「そこは思い出せないですね、まだ」 「車があるかも!」 「あぁ、あの海岸に駐車場ありましたっけ?」 「車は思い出せないの?」 「たぶんわかると思います」 「記憶戻っても話し方は変わらないのね」 「そうですか?」 「まぁいいけど、ごちそうさまでした」 NEXT 第六話 想起
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