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第六話 想起
「結構遠いんですね駐車場」
「食後の散歩にはちょうどいいわよね」
「結構車が停まってますね」
「今日はいい天気だし休日だしね」
波打ち際では家族連れや、犬を連れている人々、釣り竿を持って歩いている人が見える。
「風も強いから、サーファーも結構いるね」
「いいところですね、海があって」
「そうね、、車は見つかりそう?」
「あ、、思い出した、レンタカーだった」
「車種は?」
「あー適当に選んだから、何だっけな」
「記憶を呼び起こして!」
「車の中で酒を飲んでました」
「それから?」
「車から出て、飲みながら海辺を歩いていて、、」
「そこじゃなくて、もう少し記憶を巻き戻して!」
「んーー、人に会いに来たんでした」
「おお、いい感じ、それから?」
「ちょっと、頭が痛くなってきたので、今日はここまでてもいいですか?」
「あ、うん、そうね、お家の人が心配しないなら」
「それは大丈夫です」
「家族は?」
「いませんね」
「え、でも指輪、はっ!」
「妻はもう居ません」
「ごめんなさい」
「いや、こちらこそすみません、せっかくここまで来てもらったのに」
「ううん、色々あって私も疲れちゃった、帰りましょ」
西の方に太陽が降りる頃、空はオレンジとブルーと紫が折り重なっていて、太陽の色はオレンジ色だったんだなと答え合わせをしていた。
「洗濯物、乾いてたからここに置いておくね」
「ありがとうございます」
「まだ頭痛がひどいの?」
「いえ、だいぶ良くなりましたよ」
「無理に思い出さなくてもいいけど、レンタカーの延滞料金が少し気になるところね」
「すみれさんは、、」
「えっ!?」
名前を呼ばれたのがこれが初めてだったのに気づく。
「あぁ、すみれさんって呼んでも?」
「もう呼んだよね?」
「僕のことは剣司でいいですよ」
「え?いきなり名前呼び捨てとか無理なタイプです」
「僕は33歳ですが、すみれさんより年上でしょうか」
「下ね」
「だったら呼び捨てでも」
「いや、そうだとしても名前を呼び捨ては無理」
「志村けんは呼び捨てなのに?」
「芸能人は別だし、本人に対して呼ぶとしたらさん付けでしょ」
「里村さん呼びですか?」
「どうしてそんな残念そうな顔をするの?」
「親にも名前で呼ばれたことがなくて、、」
「え?」
「友達には呼び捨てにされてましたけど」
「その情報いる?」
「すみれさんは、すみれさんって呼ばれてましたね」
「そうね、苗字が長いから」
「そういえば、苗字ってなんでしたっけ?」
「道明寺 すみれです」
「どーみょーじさん、、より、すみれさんですね」
「剣司さん」
「えっ!?」
「呼んでっていうから呼んでみたんだけど」
「距離を感じますね」
「今朝出会ったばかりだからね」
「せっかくはるばる会いにきたのに」
「私にじゃないでしょうが」
「いや、すみれさんであってると思いますよ」
「ん?」
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第七話
答え合わせ
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