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第八話 真実
すみれの兄は、すみれより二つ上で、すみれの母親と兄の父親が再婚し、すみれが15歳の時、一緒に暮らし始めた。
「すみれさんはお兄さんのことが大好きだったんですよ」
「大好きだったのに、思い出せないの?」
「大好きだったからこそ、おもいだせないんだと」
「両親からは婚約者が火事で死んだって聞かされたわ」
「あまりにもショックが大きすぎたんでしょう、お兄さんの死を受け入れられず、記憶から消してしまったようです」
「そっか、だから婚約者って聞かされてもピンとこなくて、あーそうなんだーショックで思い出せないのかなって」
「お見合いして数ヶ月で婚約した相手、ということならショックも少なかろうというご両親の配慮かもしれないですね」
「そういえば、私、道明寺って苗字なんだけど、あなたは里村よね?」
「苗字は呼び捨てできるんですね?」
「兄の記憶、まったくないし、あなたのことも覚えてないし、ただ、私も火事にあった日から前後の記憶がないから、なんとも言えないわ」
「きっとまだ思い出したくない記憶なんでしょうね」
「大好きな兄が亡くなったショックで記憶がないとしても、結婚相手まで忘れることはないと思うんだけど」
「苗字は、すみれさんの母方のものだそうです、お兄さんの名前を思い出させないための配慮かと」
「でも、里村、なら兄の苗字とは違うから思い出すこともなさそうだけど」
「火事があった日、亡くなったのは、すみれさんのお兄さんだけではないんです」
「え?!」
「里村 華奈、僕の妹もその火事で亡くなっています」
「ちょっと待って、思考がおいつかないわ登場人物が2人も増えて」
2杯目のコーヒーをいれた。
「大丈夫ですか?少し休みますか?」
「少し整理させてもらっていい?」
「はい」
「私とあなたは夫婦で、私の兄とあなたの妹さんが火事にあって亡くなって、私だけが生き残った」
「あってますね」
「あなたはどこにいたの?」
「僕とすみれさんは妹を通じて知り合いました」
「兄とあなたの妹さんが先に知り合ってたんだ」
「そうですね」
「妹がよくすみれさんとお兄さんのところへ遊びに行っていたみたいで、何回か妹を迎えに行ったことがあって、いつの間にか夕飯を4人で食べたりとかしだして」
「妹さんと兄はお付き合いしていたの?」
「それが、妹は好きだったみたいなんですが、お兄さんは恋人というより相談に乗っている相手としかみていなかったみたいで」
「相談?」
「はい、妹がストーカー被害にあっていて、僕も送り迎えしたりと気をつけていたんですが」
「私はどうして火事があった日、あなたとじゃなくて兄のところに?」
「あの日も妹がお兄さんの所に相談に行くとかで、どうせなら4人で夕飯でも食べようかと言ってたんです」
「あなたは?」
「僕は仕事で少し遅くなるので先に食べていてくださいと」
「なんで火事になったの?」
「警察に届け出て、ストーカー相手には警告がなされて、妹には一切近づけないようにしてたんですが、どうやら相手は妹がお兄さんと関係を持っていると勘違いしたらしく、逆恨みして」
「そんな、、、、」
「これが真実です、大丈夫ですか?」
記憶がないせいか、まるで他人事で、涙のひとつも流れなかった。
「夫婦なのに、ごめんなさい、あなたのことも覚えてなくて」
「僕と一緒に暮らしているうちに、すみれさんがどんどん衰弱していったんです」
「衰弱?」
「はい、忘れたい記憶があるのに、僕といると思い出してしまうみたいで、眠らないし、食事もとらないし、部屋に閉じこもっていて、見るに見兼ねて、、、離れることにしました」
「、、そう、なんだ」
「幸い、火事で、写真や色んな記録も消失してしまいましたので、思い出すきっかけも僕以外なかったようですし」
「その頃から道明寺って名乗るようになったんだね」
「戸籍上は別れましたが、僕の妻はすみれさんです」
すみれの中で何かがはじけた。
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