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第九話 馴れ初め
兄に彼女ができたのかと、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
兄は、相談を受けてる一人だよ、と言った。
でも女の勘としては、絶対彼女は兄に気があると感じていた。
兄は2つ年上で、頭脳明晰、性格も優しくて、スポーツも万能で兄が高校生の時、両親の再婚で兄妹として暮らすことになった。
異性をこれまで好きになったことがなかった私は、初恋が兄になってしまった。
恋というか憧れというか、理想の男性そのものだった。
もちろん兄はモテていて、バレンタインもチョコレートの入った袋を両手に抱えて持って帰ってくるくらいだった。
面倒みもよく、男女問わず、兄を慕う人は多かった。
華奈さんもその一人だった。
大学生だった兄が上京して一人暮らしを始めた。
私も高校を卒業すると、兄を追って一緒に暮らし始めた。
すでに兄の家には華奈さんがちょくちょく足を運んでいて、何やら悩みを打ち明けていた。
しばらくすると、華奈さんを迎えに、華奈さんの兄がくるようになった。
二卵生の双子らしい。
男女なので、瓜二つというわけではなかったが、似てないわけではなかった。
兄が大学を卒業し、大学院へ進む頃、4人で夕食をともにしたり、泊まって行くことが多くなった。
そんなある日、華奈さんに悩みを打ち明けられた。
「すみれちゃん、私ね、悠輔さんのことが好きなんだけどね」
もう何度も告白しているというのだが、相手にされないというか、はっきりと断られるということもなくモヤモヤしている、というのだ。
「私から見たら、2人はもう付き合ってるよう見えるんだけど」
華奈さんは嬉しそうだった。
「でもね、やっぱり、一度他の人と付き合ってみようかと思うの、このモヤモヤをすっきりさせるために」
「え?そうなの?」
実は交際を申し込んできた人物がいるらしく、一度断ったけど、それでも待つといわれたので、付き合ってみようと思ったらしい。
「どんな人?」
「んー、悠輔さんとは真逆な感じかな?」
「付き合ってみて、ダメだったら?」
「その時は、ごめんなさいってしようかなって」
「心の広い人なのね」
「待つって言ってくれてるしね」
華奈さんがその人と交際しはじめてから一ヶ月は、ぱったりと兄のもとに来なくなった。
「華奈さん最近こないけど、さみしくない?」
兄にそれとなく尋ねてみたが、そういえば、元気にしてるのか?と聞いてくるくらいだった。
少し華奈さんが不憫だな、と思った。
「それよりも、剣司に会えなくて、すみれは寂しくないのか?」
と聞かれたその時、インターホンがなった。
3人で夕食をとり、食後にコーヒーを飲んでいたら、剣司は突然立ち上がって、私を散歩に誘った。
近くの公園を二人で歩いた。
月明かりの綺麗な夜だった。
ブランコに座って、色んな話をした。
将来のこととか夢とか色々。
剣司と話すのは楽しかった。
だから、付き合おうって言われた時、思わずいいよって言ってしまった。
兄のことは大好きだし、尊敬もしているが、恋人としてというよりは、もう、人として愛していた。
剣司にはそのことも話していた。
剣司は私の話をいつも楽しそうに聴いてくれた。
気も遣わなくていいし、一緒にいて楽だし楽しかった。
剣司が大学を卒業して、しばらくすると、プロポーズされた。
二年後、私は剣司と結婚した。
兄はとても喜んでくれていた。
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最終話
日が昇る頃
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