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ぷろろーぐ
卒業なんて、まだ先でしょ。
そんな風に今だって思ってる。
あの時、見えなかった絆とか優しさとか、熱意がいとおしくて、寂しくて、もう一度、手の中に戻ってきてほしいと思うの。
暑い夏に、印刷室で喚いていたことも、思うように印刷できなくて、走り回ってたことも、遠い昔みたい。
またね、そう言って、別れても、また会えるかなんて、分かんない。
会わなくなるとも、よく聞く。
宙ぶらりんな気持ちで、でも、まだあの学校の一員みたいに思ってて、明日も明後日もここにいるみたい。
そんなことを、思っているうちに、あっけなく卒業式が終わった。
お偉いさんの退屈な話に涙も引っ込んでしまったようだ。
スミが体育館を出ると、冷たい風が前髪を崩し、隣にシオリが並んだ。
「スミちゃん。卒業式、終わったね」
スミとシオリは高校で出会った。似てないところも多いけど、何だかんだ波長が合う。
あと2人――ミキリとミミ――が揃えば、文芸部のイツメン。
ショートカットの髪が可憐な雰囲気にミスマッチなシオリ。
とりたてて美人と言うわけではないが、振る舞いに品があるスミ。
お堅いイメージを持たれがちだが、少し抜けてるミキリ。
明るくて、適当な所もあるけど、愛されキャラのミミ。
4人は文芸部の部員として、共に活動してきた。クラスは違うし、お互い思うところがありながらも優しさで上手く乗り切った。
スカートを揺らして、背の低いシオリはスミを見上げた。
「ほんとうに。……寂しいね」
「ね、スミちゃん。みんなで、集まってさ、写真とらない?」
「いいね。じゃあ、またSHRの後で」
スミとシオリはそれぞれの教室へ別れた。
その間、シオリはずっとショートの髪を撫でていた。
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