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「今日、これから籍を入れに行くの。──稜輔さん、今日が何の日か知ってる?」 「⋯⋯ごめん、わからないや」  稜輔さんは少し寂しげに笑う。でも大丈夫、もう一人にはしない。 「今日は、あなたと結婚するはずだった日」 「え?」 「思い出の塗り替えなんかじゃないの。あなたを永遠に忘れない為にこの日にした。さよならなんてしない。だって⋯⋯できない」 「志桜里⋯⋯」  他人が聞けば、こんなものは自己満足や言い訳だと言うかもしれない。けれどこれが、わたしが前を向くために出した答え。 「ずっと一人で待たせてごめんなさい。でも、今日からわたしはあなたと一緒。あなたと一緒に、あなたのために、わたしは幸せに、なる、から⋯⋯」 「⋯⋯そっか。ありがとう」  稜輔さんはやっぱり微笑んでくれた。ブルーマウンテンみたいな笑顔で。 「ねえ志桜里。結婚してしまう前に、抱きしめてもいい?」  わたしがこくりと頷いたら、もう彼の姿は目の前になかった。その代わりに、背後から二本の腕が伸びて来る。 『病める時も、健やかなる時も、空が落ちても、遠く離れても、たとえ死が二人を分かつとも──』  あたたかい何かが体を包み込む。それはわたしの中にゆっくりと溶けていった。  ピアフの深い海のような声が歌う。その歌詞の意味は、あなたが昔、教えてくれた。  そう、二人の愛は永遠になるの──。
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