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「誰か救急車を呼んでくれ!」
私はその光景を上から見下ろしている。
これが臨死体験というやつなの?
歩道に横たわる血まみれの私と、それを救おうと必死で心臓マッサージをしている彼。
「あぁ、そんなにも乱暴に激しく私の胸を圧迫するなんて…」
私はこの時間、この場所を彼が通ることは知っていた。そして私はこの時間、この場所でビルの屋上から彼の目の前に飛び降りたの。
私の憧れの田口先輩。
私には絶対に手の届かないひと。
大学のテニスサークルで出会ったときから、ずっと憧れていた。優しくてかっこよくて、何よりブスな私にも皆と同じように接してくれた。
でも彼には素敵な彼女がいて、私の入る隙なんて…だからこうするしかなかったの。こうでもしないと、私は彼に触れることすら一生無かっただろう。
優しい彼ならきっと私を救おうとする。心臓マッサージをして、そして人口呼吸。
私を懸命に蘇生させようと頑張る彼の姿を上から見ながら「もぉ死んでもいい」と私は逝った。
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