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如月桃磨は、推理ドラマの最終回に呟いた。
「どんな背景があったとしても死んでしまったら終わりなんです」
呟かずにはいられなかったのだ。
最終回に生きているものだと思っていたキャラクターが死んでいたのだから。
桃磨にしては珍しく落ち込んでいた。展開も謎めいた演出も嫌いではなかった。
「現実だって全部帳消しです。そもそも、これは元凶だけが死んでしまっています。なんの和解も解決もないじゃないですか」
桃磨は溜め息をついた。
「批評はいいです。掃除の邪魔です」
掃除の手を止めた家政夫の朱里が、いつの間にかソファの後ろに立っていた。
「あ、すみません」
桃磨は我に返ってソファに両足を乗せた。
朱里が掃除機のスイッチを入れた。
テレビドラマは今日が最終回だったが、役者の台詞は雑音に消された。
桃磨はぶつぶつ続ける。
「このドラマ、結構人気がありましたよね。驚愕の犯人に、候御期待と言ってましたが」
朱里が掃除機を止めると、テレビ画面の向こう側で役者たちの言い合いが始まった。説得ではなくのの知り合いに桃磨の脳裏に内容は入ってこない。
「ええ、監督を殺害した犯人はテレビ局の助監督だったそうです。助監督は監督に裏切られて辞めさせられた役者の妹で、監督の恋人だったそうですよ」
「それで、助監督は監督を殺したんですね」
「そうです。助監督の犯行を当てたのが主人公の睦月です。あ、ほら。あの眼鏡です。珍しく若手を使っていることに驚きました」
「好きですね。相変わらず」
朱里が笑いながら掃除機を持ち上げる。
「ミステリーは骨格さえ固まればドラマを推測するのは簡単ですよ」
「へえ。流石は小説マニア。けど、テレビと小説とでは違うところもあると思いますよ」
朱里が、笑いながら掃除に戻っていった。
「ええ、全然。脚本と小説でもずれているだけでつっこみの的になるようですから」
残された桃磨は終わりそうなドラマに目線を向ける。
ドラマでは、ひとつの事件が終わっていた。
刑事が犯人を連れていく。
主人公の睦月は黙って、助手の汐見と犯人を見送っている。
現実ではないからそれでいいと桃磨は思う。
ドラマのエンディングが流れはじめる。
聞き慣れた曲も今日で最後だ。
桃磨は、ぼんやりとキャストに目を向ける。
あまり見ない役者の名前に、エンディングの曲は寂しく重なって消えた。
少しの時間、コマーシャルがながれたあと、今日のニュースが始まる。
「昨日、岩塚市の白松義輝さんの娘陽葵さん十二歳の行方がわからなくなったとのことです」
桃磨がリモコンでチャンネルを変えてから何度目かの息を吐く。
音の消えたテレビの変わりに掃除機の音だけが響いていた。
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