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1幕 容疑者の独り言
例えばどこから話せば納得してくれるだろうか。
そもそも、私がどこで、何をしているかを語ればいいんだろうか。
その前に名前を名乗れと言われるのだろうか。
生憎、自己紹介が苦手で人付き合いも悪い。
その上、自分の名前が大嫌いだ。呼ばれたくもないし、名乗るつもりもない。人には、あだ名で呼ばれて記憶もあるが、覚えていない。それというのもたいして興味がなかったからだ。
生まれてからずっと、一人の時間が好きだった。
なので、誰かと居るのはとても新鮮だった。
私の目の前で病院のベッドに眠っている彼女は、昨晩、私に助けを求めて、気を失った。
私としては道端に捨てておいてもいいと考えたのだが、彼女の指先が私の着ていたズボンを握っていたのですこしばかり気になってしまった。そのどうしょうもない理由で、私は救急車を呼ん
だ。到着した救急車に彼女を乗せ、近くの病院に運んだ。
彼女の名前も住所もわからなかった。
警察に届けようかとも思ったが、面倒なので彼女の意識が戻るまで深いことは考えずにいることにした。
彼女が目覚めれば勝手にわかる事実が大半なのだ。
私がとやかく言うことではない。
それにここは病院なのだ。
誉められることはされても、攻撃を受けることはないだろう。
それでも警察に届けるべきかどうかといった葛藤はあったが、病院が勝手にやってくれるだろうという考えに至った。
彼女の寝顔を傍らで見守りつつ、携帯の無料書籍に目を向ける。
面会が時間終了しても、少しの間なら看護士も多めに見てくれる。
この病院は、完全看護ではあるがそうした見舞いの規則は緩い。
事態が動いたのは、彼女を病院に運んで、三日目のことだった。
女の刑事が医者と看護士と共に病室に現れた。
なに、警察署だったか忘れたが、ミディアムの髪型が印象的だった。
「白松陽葵さんとはどちらで知り合ったのですか?」
女刑事に聞かれて私はありのままを話した。
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