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「夕飯の支度をするつもりで買い物に出たときに、公園の片隅で踞っていた彼女を見つけたんです。公園は岩塚市の、グリーンフォレストです。いや、驚きましたよ。女の子が膝を抱えて植木に寄り添うように座ってたのですから。私は一旦、彼女の前を通り過ぎたのですがいたたまれなくなって引き返し、彼女に呼び掛けましたがまるで返事はありませんでした。これはおかしいと思って救急車に連絡しました。あの公園にはまだ公衆電話が備え付けてありましたので助かりました。私、携帯を部屋に置いてきてしまったんです。そうして救急車に連絡した私は彼女の側にずっといました。その最中、救急車のサイレンの音を聞いた彼女が突然、震え出したんです」
「震え出した? 」
「刑事さん。私は探偵でも警察でもないのでそこまではわかりかねます」
私は、少女と出会ったときのことをなるべく詳しく説明したつもりだった。
なのに、女刑事の表情はどこか疑うようなものだった。
私は、嘘偽りなく話したというのにどうして疑うような目付きで見られるのか理解できなかった。
「本当なんです。信じてください」
私は、咄嗟に言った。
「わかりました。班目さん」
女刑事が、私の名を口にしたとき昔から感じていた嫌悪感が渦巻いた。大人になっても変わらない名字にストレスを感じる。私は、班目樺音という名前が嫌いだ。女のような名前だからだ。言っておくが、私は男だ。
「刑事さん、全然信じてくれていませんね?」
私は、嫌悪感をそのまま吐き出していた。
女刑事が慌てる。
「信じます。彼女を保護してくれたということですよね。ありがとうございます」
私は、女刑事の口から出た言葉に信憑性を感じることができなかった。
ふとした瞬間にフォークを取っていた。
先ほど食べていたスパゲティに付いてたものだ。
女刑事に突きつけて、私は寝ている少女を人質にしていた。
自分では最良の一手だと思った。
下手に言い訳したところで眼前の女刑事が信じる気配はなかった。
「嘘だ。信じられるわけがない。警察というのはそういうものだ!」
私は声をあらげた。
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