1幕 容疑者の独り言

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1 結城イサコは、斑目樺音(かおん)がひっくり返ると同時に確保に動いていた。 斑目に一撃を加えた影が、斑目が落としたフォークを入り口へ吹き飛ばして、ベットから落ちた少女を抱える。 その影がナースコールを押す前に看護士たちは駆けつけた。 騒ぎを知った患者が呼んできたのだ。 イサコは、斑目に手錠を掛けた。 「業務執行妨碍で現行犯逮捕」 斑目は、気絶している。 斑目の様子を駆けつけた医者と看護士が診察する。 「イサコ刑事。なんなんですかその人」 斑目の肩に一撃を加えたメイド服の青年が、少女を看護士に預けて立ち上がる。 「朱里(しゅり)さんこそどうしてここに?」 イサコは斑目を捕らえたまま、顔だけあげる。 女の姿をした朱里が、近づいてきた。 「お見舞いです。赤石さんの」 「え、赤石さんどうかしたの?」 赤石圭吾は四年前に警察を辞めて探偵となり、日本中の事件を解決して回っている。 朱里が雇われている如月家の中庭に、事務所とは言えない物置小屋を根城としている。 「山奥の獣道で猪と出会って、戦に負けてしまったそうです」 「なに、それ」 「言葉通り、守秘義務により、怪我の原因は言えませんってことだろうと桃磨くんが言ってました」 イサコは呆れた。 「警察を辞めてから赤石さんのメルヘン度合いがめちゃくちゃ強化された感じ気がする」 「それは、私も感じていました。以前それなりにリアルだった気がします」 朱里が賛同する。 ドタドタと駆けつけた警察の援軍が斑目を連れて病院をあとにする。 イサコは少し考えて、朱里と共に病室を脱け出し、赤石のところへと向かっていた。 通路を曲がったところで、朱里に聞かれた。 「私にはどうすることもできないのですが、大丈夫なのですか?」 「大丈夫。大丈夫。私にできることは終わってるから」 「けれども、職務中では?」 心配する朱里にイサコは笑った。
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