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「赤石さんの事件に興味があるのよ」
「守秘義務だとかで教えてくれませんよ?」
「だから、桃磨くんから少し話を聞いてたのよ。桃磨くんには口が軽いとこあるから」
「へえ。そうなんですね」
朱里が東棟への道を歩き始めた。
「相変わらず、大きな声では言えない内容ではあったけれど。いつでも力は貸すつもりでいるの」
「そうしてくれるとありがたいです。けれども私には教えてくれないんですよね」
朱里はどこか寂しげだった。
「巻き込みたくないのよ。私だっていつも蚊帳の外。困ったものだわ」
「無茶しすぎる二人ですからね。あ。ここですね」
朱里が、308号室の表札を確認してなかに入る。
安定の四人部屋で、患者は全員カーテンを閉めていた。
赤窓際のベッドの上に、赤石は居なかった。
「手洗いですかね?」
朱里が首をかしげた。
イサコは、荷物を手際よく調べ、貴重品入れを開いて首を振った。
「いいえ。ちがうわ。脱け出したのよ」
「えっ」
朱里が驚くことをよそにイサコは携帯を鳴らして病室を飛び出し、休憩室まで移動した。
しかし、携帯は繋がらない。
朱里もどこかへ携帯を鳴らした。
二人で携帯を繋ぎ続けて数分が過ぎる。
イサコの携帯が繋がったのは、五回かけ直したあとであった。
「あ、もしもし。赤石さん? イサコです。お久しぶりです」
イサコは矢継ぎ早に言葉を並べた。
「イサコさん。僕です。桃磨です。お久しぶりです。今、赤石さんは運転中です。どうかなさったんですか?」
「え、桃磨くん? なに、二人でドライブ?」
聞こえてきた桃磨の声にイサコも朱里も驚きを隠せなかった。
「そんなところです。でも、赤石さんはあんまり楽しそうじゃありません」
電話越しに桃磨が微かに笑っている。
「当たり前でしょう。赤石さん、病院から逃げ出したのよ? どこへ向かってるの? まさか、例の岩手じゃないでしょうね?」
イサコは電話越しに声を強めた。
朱里が怪訝にイサコを見守る。
「そうです。ジャンボ機の離陸も難しく、ヘリコプターでも山越えができない場所にある村ですね。高い山があってグライダーかパラシュートを使えば田や畑に落下はできるそうですが、天候でその計画も残念なことになる。駅から問題の場所までタクシーで5000円以上。バスも昨今、廃止になったというヤバイ場所です」
桃磨が珍しくそんな遠回りな説明をした。
「過疎化が進んでいて、誰もバスを利用しないそんな村に二人で行ってどうするのよ」
「お話によると警察もそこまでパトロールしてないのだとか。けれどもふっとしたときに同じ場所でネズミ取りをしている村だそうです」
「だからそこでなにするのよ?」
「事件を解決します」
桃磨はにべもなく言いはなった。
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