1幕 容疑者の独り言

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2 イサコと朱里は目線を合わせた。 桃磨はそれきり、携帯を切ってしまった。 イサコはもう一度かけ直したが、今度は何度掛けても応答がない。 運転中の赤石が無理矢理電話を切ったのだろう。 「ライン、入れますね」 朱里が機転を利かせて桃磨に短いメッセージを入れた。 イサコは、面白くなさそうに病院を出て喫茶店へと移動した。 職場へは、早退しますと連絡をいれて、珈琲を注文する。 午後四時を過ぎた喫茶店には、徐々に客が集まってくる。 「あ、既読つきましたよ。返信はありませんけれど」 朱里が、スマホの画面を見せてくる。 イサコは朱里のスマホを奪うようにひったくって、スタンプを滅茶苦茶に送信したが、桃磨からの返信はなかった。 「なによ。二人して。昔から私だけおいてって」 「寂しいんですか? あの二人に着いていっても徒労するだけだと思うんですけれど」 「朱里さんは日が浅いからわからないのよ。あの二人には死神とか悪魔とかそんなレベルのものが憑いているわけじゃないの。あの二人に引っ付いているのは執着よ」 「執着ですか?」 「そうよ。無冠の流星という表向き精神科医。裏稼業は闇での仕事。そいつにたいする執着」 「なるほど。最初の方に少し聞きましたよ。確か桃磨くんのカウンセリングを担当したってことまでは」 「ええ、桃磨くんのカウンセリングをしたそいつが、桃磨くんを誘拐した犯人だった。けれど、証拠はなにもなく、警察は無冠の流星を名乗る犯人を逃した。桃磨くんが高校生のとき何度か姿を表して、赤石さんが警察を辞めてからはとんと音沙汰がない。だけれど」 イサコは声を潜めた。 「二人で行ったなら、無冠の流星は必ず絡んでいるに違いないわ」 イサコは悩ましげに腕を組んだ。 「だとしてもなぜ今さら?」 朱里は首を傾げた。 「朱里さん、無冠の流星のことはこまで聞いているの?」 「時系列を追うと、当時小学生だった桃磨くんと身元不明の少女が誘拐された。警察に大々的に発表した犯人は、海岸近くの小屋に二人を連れ込み、身元不明の少女を連れ去って、桃磨くんだけを砂浜に捨てた。身元不明の少女についてはなにもわからず。桃磨くんはその子は犯人が殺したと言っているが、赤石さんの話からすると──身元不明の少女は、見付かっていない。その後、心に傷を負った桃磨くんがカウンセリングを担当した人物が誘拐犯であったことに気づく余裕は無かったと、聞いています」
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