番外編・ある夜のこと

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 これから来るべき状況にそなえて、しかるべき準備は自分ですると言ったのに、結局、「俺が全部やる」と言われて何もさせてもらえなかった。できればシャワーもひとりで浴びたかったんだけどなあ。バスルームで身体をきれいにされながら、僕はもう恥ずかしすぎて消えてしまいたくなる。 「あの……、やっぱり自分でやるからいいよ、……っう、あ」 「おまえはなにもしなくていい」  良介さんの雄々しい身体を目の当たりにして、さらには身体じゅうの敏感なところを巧みに刺激されて、僕はあっというまに限界ギリギリだ。壁に手をついて必死にこらえているのに、ボディーソープの濃密な泡で前を扱かれながら、後ろにはそろっと長い指が入ってくるからたまらない。 「あの、ちょっと……待ってっ、それはだめっ」 「キツいな。緊張してる?」 「……それは、そうだよ……あっ、やだってば、っ」  良介さんの指がぐうっと僕の中で動いて、僕はたまらずに達ってしまった。身体の力が抜けていく。後ろから優しく抱きかかえられて、シャワーできれいにしてもらった。泡とともにいろいろなものが流れ落ちていくのを感じて僕は大きく息を吐いた。  ◆  これもまた顔から火が出るほど恥ずかしかったんだけど、バスタオルで身体をくるまれて、抱っこされてベッドに連れていかれた。  良介さんの部屋は、驚くほどモノが少なくて殺風景だった。洗練されたインテリアを勝手に想像していたけど、きっと外で過ごす時間が多いから、こだわりがないのだろう。僕は複雑な気持ちになる。良介さんが僕の気持ちに応えてくれたからといって、僕がひとりじめできるわけではないのだ。  殺風景な部屋ながら、しかし、家具や調度品はどれも趣味がよくて値の張りそうなものばかりだ。ベッドなどは僕のものとは比べものにならないほど寝心地が良い。僕たちふたりの体重を受けてマットレスがゆるやかに沈む。目を上げたら良介さんのきれいな顔があった。湯上がりの髪の間からやさしい目が僕を見ている。僕は思わず顔を背けた。 「……電気、消さないの」 「消さない」 「恥ずかしいから消してほしい」 「あっ、そうだ。あれを使ってみるかな」  僕の希望は全然聞いてもらえなくて、良介さんは部屋の隅に置いてあった紙袋から何かを取り出して開封している。彼が手にしたものをみてさらに恥ずかしくなった。それは小さなボトルに入ったローションで、その……、愛し合うときの必需品では、あるのだけど――。 「こないだ、こむぎが持ってきたんだよ。かぶれたりしないかな。使ってみようか」 「あ、うん、……大丈夫……だと思う」 「なんだよ。もしかして使ったことがある?」 「……」  良介さんが意地悪な笑みを浮かべたので、僕もあえて答えなかった。じつはそのローションのボトルには見覚えがある。なぜなら僕も先日、同じものをこむぎ君にもらっていたからだ。「良介とエッチするときに使いなよ。すごくいいから」だって。こむぎ君は良介さんにもあげていたのか。
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