終章・告白

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 さくらさんが「いっちゃえいっちゃえ、情熱的に」と小声で(はや)す。蜜柑ちゃんも無表情で無言なのに「ゴーゴー」と小さく拳を上げる。ユウくんとママは無責任にニコニコするだけだし、店内も温かい拍手に包まれて――、何なんだよこれは。  それでも僕は覚悟を決めた。こんなチャンスはもう二度と来ない。ここでひるんでは男がすたる。盛り上がる歓声のなかで、僕は叔父にだけ聞こえるように声をひそめて早口で彼に話しかけた。 「良介さん。これは自分だけの秘密にしておくつもりだったんだけど、こんなチャンスは二度とないから言うね。……僕、良介さんのことが好き。子どものときからずっと大好き。だから一生の思い出にするから、ごめん、一回だけ。許して」  そう言って僕は、叔父の返事も待たずに、抵抗する隙も与えずに、彼の肩を引き寄せてキスした。もちろん唇にだ。わあっと喝采と拍手が起こる。情熱的なキスなんてする勇気はない。軽く触れてすぐに離した。その後は顔を上げることができなかったから、彼がどんな顔をしていたか、わからなかった。  ――良介さんの唇は薄くて、少し乾いていた。そして僕の大好きな、ほのかに香水と体臭のまじった匂いがした。  ◆  日付が変わるころ、僕たちは「クラブ永遠」を出て帰途に着いた。黒塗りハイヤーはさくらさんと蜜柑ちゃんに譲って、僕と叔父はタクシーを拾って帰ることにする。  車内で叔父はずっと無言だった。僕が人前で強引にキスしたことに、ことさらに腹を立てているわけではなさそうだ。どちらかといえば「どんな顔をしたらいいかわからない」。彼の横顔にはそう書いてあるような気がした。  僕はといえば、不思議なほど満ち足りていた。一生黙っているつもりだったけど、叔父に気持ちを伝えることができた。キスも……少なくとも、拒絶はされなかった。  この気持ちをどう表現しよう? ……そうだ。スッキリと「気が済んだ」のだ。
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