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マンションに帰り着いてエレベーターに乗りこんだ。叔父が先に乗って僕が続く。叔父は四階のボタンしか押してくれていなかったから、僕はそっと手を伸ばして、自分の部屋がある三階のボタンを押した。
古いエレベーターがのんびりと上がっていく。それまでずっと黙っていた叔父がぼそっと口を開いた。
「おまえの気持ちは……知ってた。知ってて気づかないふりをしてた」
僕はたいして驚かなかった。そうだよな、これだけ好きだったんだからバレていて当然だ。笑いがこみあげる。
「そうだったんだ。恥ずかしいな。いつからバレてたの?」
「昔から、うっすらと。はっきり気づいたのは一緒に『猫探し』を始めてからだよ」
「僕は片思いでいいって覚悟を決めてるんだ。だから……勝手を言うようだけど、僕のことは気にしないで。熱心なファンが、そばをうろちょろしてるってぐらいに思ってくれてたらいいよ」
エレベーターが三階に着いた。扉が開いたので、僕は晴れ晴れとした気持ちで「おやすみなさい」と告げて一歩踏み出して――、強い力で腕をつかまれて引き戻された。そのまま抱きしめられて、また息が止まりそうになる。エレベーターはのほほんと扉を閉めて、僕たち二人を乗せて四階へ上がっていく。
「りょ、良介さん――」
「勘違いかもしれないと思って、ずっとその可能性を排除してた。……ずるい言い訳だよな。おまえの覚悟に比べたら、俺はずるいし、意気地なしだ。自分の気持ちを認める勇気もなかった。俺も、おまえのことが好きだったのにな」
「……僕の『好き』と、良介さんの『好き』は、種類が違うよ」
「おまえの言ってるのはどういう『好き』なんだよ」
「それは……」
僕は口ごもった。僕の言う「好き」っていうのは――良介さんと手をつないだり、キスしたり、抱き合ったり、セックスもしてみたいっていう「好き」だよ。……なんて言えるわけない。黙っていたら叔父が小さく笑う気配がした。
「さっきの、さ。おまえの情熱的なキスというのは、あの程度なのか」
「情熱的なキスなんかしたことないから、わからなかった、ん、だよ――」
唇が被ってきて最後まで言わせてもらえなかった。熱くて柔らかくて湿った舌が心地いい。僕は素直に口を開いて、大好きな人とのキスを味わった。
一生、片思いでいいと思ってたけど、両想いになれるんだったらそっちのほうがいいに決まってる。
のどかな到着音がしてエレベーターの扉が開いた。叔父が僕の手を取って歩き出した。僕は彼の指にしっかりと自分の指を絡ませてついていく。
【完】
(あとがきをはさんでアフターに続きます!)
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