番外編・ある夜のこと

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 僕たちはしばらくの間、ベッドの上に泥のように広がってぼんやりした。  良介さんの身体が冷えてきた気がして、肌掛けをかけてあげようとしたら「おまえも入れよ」とくるまれる。腕の中に引き込まれる幸せを味わいながら、良介さんの心臓の音に耳をすませた。 「達也」 「……はい」 「もう、ハクは戻ってこないけど、いいよな」 「えっ」 「俺がいれば、抱いて慰めてくれる奴がいなくても、いいよな」 「……な、何の話かな」 「俺が面倒をみてやる。セックスだけじゃなくて、全部」 「うん。嬉しい」 「幸せにしてやる。それなら周子も文句は言わないよな」 「あ、うん。……ありがとう」  良介さん、重たいなあ。そんなに覚悟を決めてくれなくてもいいんだけどな。思わず笑いがもれそうになって、僕は彼にぎゅうっと抱きついた。 「ねえ、良介さん」 「うん?」 「僕のこと、名前で呼んでくれて嬉しい」 「なんだ、そんなことが嬉しいのか」 「だって今までずっと『おまえ』としか呼んでくれなかったから」 「そうだっけ」  すまん、と、良介さんは僕の髪に触りながら白い歯を見せて笑った。  僕も嬉しくなって、笑った。      ――おしまい♡
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