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無事に志望校へ合格したわたしは、入学式を終え、新しく始まる学校での生活のオリエンテーションに参加していた。
いよいよ明日から授業が始まる、その前日の放課後に、事件は起きた。
「えぇー、そうなんですか」
「そう。よかったら仲良くしてあげて。友達ができなかったらって心配してたんだ」
校門のあたりで何やら男性と話す、女生徒数人の声。校外のだれかが、だれかを訪ねてきたんだというのはわかる。そして、なんとなく、わたしはその先に足を進めたくなくなった。けれど、そう思ったときには既に遅かった。
「……あ、来た」
「芦屋さん。この方、あなたの彼氏なんでしょう?」
男と話をしていたのは、わたしのクラスメイトの子たちだった。
「……え?」
けれど、彼女たちが何を言っているのかをわたしは理解ができないまま、会話だけが進んでいく。
「たった今、紹介されたの。こんなに素敵な彼がいるなんて羨ましい」
「しかも、お友達ができるかを心配してくれるなんて……芦屋さん、わたしたちでよければ仲良くしてね」
「だって。よかったな、世莉果」
「……」
「突然のうれしさに声も出ないって? 今日のところはひとまず帰ろうか。じゃあみんな、明日からよろしくね」
男はわたしの肩を抱いて、さも仲良しをアピールするように彼女たちの前から去る。
「……世莉果、逃げようとしても無駄だからな。絶対に許さないって言っただろ」
学校から離れ、ふたりきりになったところで、彰人は先ほどより声のトーンを下げてそう言った。男の正体は猫被りだった。
「やだ。もう許して。あのときのカエルは同じものはむりだけど、ちゃんと返すから」
「べつに逃げられたカエルを詫びてほしいわけじゃねーよ。あのときのおれの気持ちを踏みにじった、大切にしなかったのが許せないだけだ」
「……わたしの気持ちは、ずっと踏みにじってるくせに?」
「は?」
もう、なんか、どうでもいいや。
この際だから、すべてをぶちまけてしまおう。
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