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終わりの鐘が鳴ったのは、わたしが高校2年に進級した後のことだった。
「世莉果ちゃん、一緒に帰ろう」
あの日、彰人がわたしと友人になってくれるように誘導した彼女たちが声をかけてくれる。中高一貫というのは内向的なわたしにとってはありがたく、中学の頃から進級してきた子たちとは基本的にみんなと仲良くできていた。
「あ、ごめん。一緒に帰りたいのは山々なんだけど、今日は彰人くんが迎えに来てくれる日なの」
「そっか、残念。久瀬先輩って、大学生になったんだよね?」
「うん。相変わらずお兄ちゃんとも仲良しだよ」
「きょうだいで久瀬さんと親しいなんて、本当に素敵ね」
表面を気にして、たまに迎えに来る彰人と少しの会話での印象しか知らないみんな。昔のように、騙されてる、本性に気づいて、とは思わなくなっていた。
それは、もしかしたら、わたしの方に変化があるせいなのかもしれない。
じゃあ、また明日ね、と元気よく友人たちに向かって手を振って先に教室を出、校門まで行くと、いつもであれば待っているはずの彰人ではなく、彼と同い年くらいの女性がひとり立っているのが見えた。
「芦屋世莉果ってあなたよね?」
「……えっと、あなたは……」
「わたし、久瀬くんと同じ学部なの。彼、急用ができてここには来られないから」
「え……」
思わず開いた口が塞がらなかった。
彰人は、小さな約束でさえ一度も果たさなかったことはない。それは、わたしとの過去でもわかる通りだ。
「そうなんですか。でも、彰人くんから、そういった連絡がきてないんですけど」
「あぁ、うん。ちょうどこっちに予定があったから、わたしがあなたを迎えにきたのよ」
「そう、ですか」
ついていってもいいのだろうか。
そう考える暇もなく、わたしは彼女に腕を引っ張られていた。
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