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プロローグ
わたしは、ごく普通の家庭に生まれた。
わたしより2年先に兄が生まれ、わたしの生活は兄とともにあった。
だから、彼と出会うのは必然だったのだと思う。
「せり〜、おれの友だちの彰人だよ」
「こんにちは、あきとくん」
「……」
初めて兄に紹介されたときに気がつけばよかったと、今となっては痛感する。
このときの彼……彰人との出会いが、わたしの人生を大きく左右するターニングポイントとなったことを。
あの日ーー初めて兄に紹介されて暴君な王に挨拶をした日、わたしの挨拶に返さなかったことを詫びながら言った。
「世莉果、さっきはごめんな。これ、やるよ。おれの宝物」
「えっ、たからものなのにくれるの?」
「もちろんだよ。受け取って大事にしてくれ」
「ありがとう。だいじにする!」
彰人が何かを持った右手を差し出すので、それを喜んで受け取ろうと両手を広げる。
そして、そこにのせられたものに、わたしは驚いて手を引っ込めた。
「きゃあっ」
「あーあ、せっかく捕まえたのに。カエル、世莉果のせいでどっか逃げちゃったじゃん」
「ご、ごめんなさい。でも、せり、むしはにがてなの」
「は? カエルは虫じゃねーから。それに、大事にするって言ったくせに、嘘ついたよな」
「あきとくん、おこってる?」
「そうだな。もうどんなに謝っても、世莉果のことはぜったいに許さねー」
そのときに見た彰人の顔は、今でも鮮明に覚えている。
小学校に入学すると、彰人の存在はとても大きなものだったことが判明した。
美形ということでわたしの兄と並んで人気があり、小学3年ながら彼は王だった。
王という異名は言い得て妙だと、それを名付けたわたし自身も思う。王子と呼んでいるひともいたようだけれど、わたしの中では完全に王そのもの。
他人の……わたしの兄の前ですら外面が良く、わたしに対しては、ただの暴君なひとだ。
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