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エスターは大きな石を避けてくれながら前へ進んでいく。
すると樹里ちゃんの泣き声が聴こえて来た。
「……ママ、ママ!」
その声の方向へ足を進めると、右手が車体を触った。車は土砂の中に半分以上が埋まっている様だ。左後ろの窓が割れていて、そこから声が聴こえて来ている。割れた窓から声をかけた。
「樹里ちゃん、大丈夫?」
「あっ、お姉ちゃん。ママ、血が出てるの。助けて!」
目の見えない私にはどのくらいの怪我なのか分からない。運転席の女性に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ああ、も……盲導犬の方ですね。私は挟まれて動けません。樹里だけでも助けて下さい」
「分かりました。樹里ちゃん、窓まで来れる?」
「ううん、チャイルドシートを外せないの」
私は頷くと車内へ手を伸ばした。だけどチャイルドシートに手が届かない。
「誰か呼んで来ないと……」
その時だった。エスターが窓から車内へ飛び込んだ。
「エスター! ロックを外すのよ」
しかし、口だけしか使えないエスターは簡単にロックを外せないみたいだ。
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