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盲導犬の卒業
私は樹里ちゃんのママから提供された角膜の移植手術を受けて、久しぶりに視力を取り戻していた。それは樹里ちゃんのママの犠牲のお陰であったが、私はこの奇跡を素直に喜んでいた。
視力を取り戻した私は、既に退院していたエスターに会う為、盲導犬訓練センターを訪れていた。私が『初めて見る』そのセンターには沢山の盲導犬が暮していた。
そしてその中に『彼』が居た。初めて自分の目で見る彼。白いラブラドール・レトリバー……。
「貴方……エスターね?」
鼻の利くエスターは私に気付いたのだろう、大きく尻尾を振っている。でも目が見えないからその視線は少しだけ私からズレている。
私はしゃがむと彼をギューと抱き締めた。
「エスター。逢いたかった!」
エスターは視力を失ってしまったから、もう盲導犬として生きていくことは出来ない。
だから……。
「エスター、もう盲導犬は卒業ね。今度は私が貴方の目になってあげる」
私のその言葉に彼は初めて『ワン!』と吠えて大きく尻尾を振った。
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