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プロローグ
「俺らさ、やっぱり、もう一度、ちゃんと付き合わない?」
「えっ、いきなり何?ちゃんと付き合うって、どうゆう・・・」
売り言葉に買い言葉で長すぎる冷却期間に突入したのはいつだったろう・・・
どうやったら昔みたいな普通に戻れるのかさえ、分からなくなっていて。
連絡をとらない理由を、仕事の忙しさのせいにして。
そんな素直になれない私に、いつだって先に手を差し伸べてくれるのは彼の方。
「今更なのは分かってるんだけど、遠回りした今だから、やっと言えることもあるし」
そう、いつだって、キッカケをくれるのは彼からだった・・・見た目と違って彼はきっと私よりずっと器が大きい人なのは分かってた。
可愛げが不足している私は、結局、自分から折れることは出来なかったわけだし。
もうさすがにダメかな、諦めようかなって思ってた。結局、いまだに諦めきれなくて、暴れる気持ちを必死になって見ないフリを決め込んでいた。
だから、今度こそ・・・
そんな風に言ってくれた彼と私はとしっかりと視線を合わせた。私の気持ちをちゃんと伝えたい。それなのに・・・・
「・・・・詐欺だ」
余計な一言が口をつく。
「何がだよ?」
あぁ、またやってしまった・・・・
でも私がそう言えば、意図が分かったのか、彼はちょっと照れくさそうに笑ってくれた。
「こういう時くらい、ちょっとは格好つけたいじゃん」
「そんなの、もう必要ないのに。どんだけ上げ底」
「これでも5cm上げてる。これでやっと同じ目線だもんなぁ。今日ヒール履いてる?」
「ちょっとだけ。もしかして、仕事先でもシークレットシューズ?」
多分、裸足で並んだら、まだ私の方が大きいよね?
彼のプライドのためにも絶対言わないけど。
「靴脱ぐことないから、仕事で」
「だったら飲み会とかどうするの?」
「座敷には上がらない」
徹底してるな・・・・
「付き合ってた女の子たちにはバレなかったの?」
「そこはさ、あばたもえくぼ的な」
「相変わらずモテるんだねぇ」
「1番モテたい人からちゃんと好きになってもらえるように、経験積んできたから」
そうくるか・・・・
「経験、積み過ぎじゃん?」
「ちょっと時間がかかり過ぎて、遠回りしたのは否めないけど」
昔から、右側だけ口角が上がる彼の笑い方が好きだったっけ・・・
「高校の時のあの演劇ラスト、覚えてる?あれは二人で逃げ出して終わりだったけどさ、現実世界では普通に幸せになりたいんだよね」
「なにそれ?」
「ストレートに、はっきり分かるように言わせてもらう。もう同じ轍は踏まない。ずっと好きでした。結婚を前提に付き合って下さい」
ちょっと予想の上をいかれて、狼狽えそうになる。
「いきなり結婚とか、それはズルくない?アラサー女を結婚で釣るとかさ・・・」
「アラサーは俺も一緒。タメだし。でも今ちゃんと言わないと、仕事の忙しさを口実にまた逃げられるから」
自分に自信がもちきれなかった私は、彼から伝えてくれようとする気持ちになかなか真っ直ぐに向き合えなかった。
「仕事の忙しさでは同じでしょ?私、前にも言ったけど、仕事、辞めないよ」
「勿論、承知の上です。危ないから辞めて欲しいと思った時期もあったけどね。もう諦めました」
そして、いまだ、素直になりきれない私を彼は慣れた手つきで抱きしめる。
どんだけ経験積んだんだよ?
だいたい高校の時は、私が彼を抱きしめてあげたのに。だって私の方が誰が見ても背が高かったから、その方が楽だったし自然だった。っていうか、あれは演劇の一コマだったっけ?
「私も・・・」
「私も?」
「ずっと好きだったんだよ」
こんな私でも、たまには素直に気持ちを伝えてみたい。
「知ってた」
あっさりと余裕をかましながら言う彼に反撃だ。
「私だって知ってたもん。私のこと、ずっと好きだったじゃん?」
「うん、今も好き」
なんで、そんなにあっさりと・・・・これって、私、完敗じゃん?
「私も好き」
出会ってから12年。私たちは、やっと今までよりもずっと真剣に付き合うようになりました。
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