キャスト決定

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キャスト決定

「それでは今回の学園祭の出し物はロミオとジュリエットの男女逆転劇ということで決定します」 パラパラと拍手が起きた。ホントはメイド喫茶をという声が大きかったのだけど、昨今の事情を考慮し、飲食店関係はボツとなってしまったための代替案。 それで皆のヤル気が一気に下がったため、何に決まろうと、皆、どうでもよかったというのが本音だろうな。丁度英語の授業のテキストに抜粋が載っていたシェークスピアの物語を英語の教科担当だった担任の岡田先生が推してきたことで決まったようなものだから、皆の志気はかなり低い。数少ないイベントが催行されるだけでも、ヨシとするかぁ、程度の雰囲気が私たちを覆っていた。 そもそもウチのクラスには学校1番のイケメンも美女もいなかったので、さすがに何か話題性はないかということになり、せめて男女逆転にでもするかという経緯。小手先の工夫というか・・・。でも、これが私にはいけなかったんだよね。 「ロミオとジュリエットどうする?」 「もう決まりじゃねぇ?」 「だよねぇ、女子役やれるとしたら我妻一択だろう」 「ロミオは?」 「舞台映えを考慮して、女子で1番背が高いのは?」 「清原だよな」 「よし決まり決まり」 皆が勝手に発言を始めている。この流れはかなりヤバイ。 「勝手に決めるなよ」 「勝手に決めないで」 我妻君と私の二人はほぼ同時に声をあげていた。 でもクラスメートからの、面倒なことは、さっさと決めてしまえという圧力に私たちは負けたんだ。 断るにしても、じゃあ、誰がいいんだと聞かれたり、他の子に押し付けるようなことになったら、後味悪いし。 我妻君の方をチラッと見たら、彼はちょっと拗ねた顔をしてたみたいだけど、私と目が合うと、軽く会釈だけはしてくれた。 高校1年も2学期に入っていたけど、彼とは、ほとんど喋った記憶がない。 もう2学期かと思うと、ちょっと寂しい気もする。夏休みもイベントらしいイベントって、何もなかったし。クラスで何かをするなんて、今回が初めてなんじゃないのかな。そのせいか、我妻君に限らず、他のクラスメートとはあまり接点らしい接点を作る機会があまりなかったし。 だからか、あえて無視してた訳じゃないはずけど、ホント、我妻君と話す機会は殆どなかったんだよ。 いくら劇とはいえ、恋人役かぁ・・・・気が重い。それも私、ほぼ王子様的ポジションだよね。 「すごーい、ルー、主役じゃん?」 呑気に、でもちょっとからかいモード入ってる沙耶に、マジ、ムカつきそうになっていた。 「代わる?」 「いやいや私の身長じゃ、ロミオなんて無理筋。ルー、きっと男役、恰好いいよ」 嬉しくもないリップサービスに溜息が出る。 まぁ、劇の主役なんて、初めてだけど。JK時代の思い出の一つとして割り切るか・・・・ って、言っても、男役だしなぁ・・・・。 「私、舞台とか無理だし。緊張するし。台詞なんて絶対、覚えられない」 「台詞あわせなら、付き合うよぉ~。私、ジュリエット役やればいいんだよねぇ。なんか気合入れちゃおうかな」 楽しそうに笑う沙耶が心から羨ましかった。 彼女ならジュリエット役、普通に結構いい線いったんじゃないかって思う。 クラスでも彼女は間違いなく可愛い部類だし、休み時間に男子が彼女に向ける視線はかなり熱い。 今回は男女逆転劇になったのが、少し残念だなって思った。 多分、普通なら彼女がジュリエット役に間違いなく推されただろうし。 そんなことを思いながら、私はまた溜息をついていた。
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