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モデル体型
ロミオとジュリエットをマジに演じようと思ったら、とてもじゃないけど、持ち時間じゃ全く足りないので、有名なセリフのシーンをいくつかピックアップして、ナレーションで多くのストーリーを進行させ、かつ最後は死んじゃうんじゃなくて、二人で愛の逃避行に出るっていう感じで正味1時間程度で収めることになったから、大変だ。
最初は乗り気じゃなかったクラスメートたちも、大道具を作ったりしている内に、なんとなく盛り上がってきて、かつ絵の上手い生徒が何人かいることが分かると、彼らを中心に背景が描かれ始める。
手先の器用な生徒が衣装を作ることになり、メイクの上手い女子がニキビ跡が残る男子の顔にファンデーションを塗ったりして大笑いが起こる。
イベントが極端に少なくなっている昨今だけど、やっぱり皆で何かを作り上げるのって、楽しもんだなって純粋に思う。
だって、世間的に言ったら私たち、青春真っただ中世代の16歳ですから。
とは言え、ほぼ王子様的な恰好をさせられるJKとしては、思いはやはり複雑な訳で。
相手役の我妻君なんて、ちゃんと喋ったこともない相手をきているし。
私には残念ながらボーイフレンドがいた実体験もないし、ましてや恋する男子の気持ちなんか分かるはずもない。
この前、初めてセリフ合わせをしてみたけど、ただの棒読み活劇になりそうで・・・・
その後、さすがに見かねたらしい沙耶が本格的にセリフ合わせに付き合ってくれたけど、何度ダメだしをされたことか。どうして、みんな、照れずにセリフを言えるんだろう・・・・不思議でしかない。
我妻君のほぼプリンセス姿は純粋に可愛かった。
あんなドレス、本当だったら私が着てみたいのに。女子だったら、ほとんどみんながそう思うはず。
彼はスゴク恥ずかしがっていたけど、顔つきが童顔なせいか、確かに女子で通りそうな感じだったし。純粋に可愛い。その姿を見て、クラスメートの多くの男子に抱きしめられまくっていたものね。
一方の私と言えば、背が高い以外に強みは何もない。
見かねた安藤君が宝塚のDVDを何本も貸してくれることになった。
安藤君は今回の演劇の脚本、演出を担当している。
彼の映画演劇に関する造詣はかなり深いらしく、あの監督のこの作品が・・・・てな、話しを延々と聞かされた。もはや、オタク系なのか?私の知らない世界がそこにあるらしい。
彼の演劇仲間には、それぞれ得意のジャンルがあるらしい。その中の、所謂『塚ファン』の方から、コレクションの一部を私に無料で貸し出ししてくれることになった。てっきり女子かと思っていたら、安藤君によると、その友人というのは男子らしい。多様化の時代に先入観をもっちゃいけないなって、自分に言い聞かせた。ただ、そのDVDを貸してくれた彼からは、安藤君経由で取り扱いは丁寧にと念を押されたけど。
演出兼監督の安藤君から歩き方がまず違うと言われたので、DVDを何度も眺めてみる。女性なのに男役を演ずる彼女たちは、男性にしか見えなくなってくるから不思議だ。歩幅、腰の使い方がどうやら違うらしい。そもそも男女では、どうしたところで骨格が違う。どうやら女性は太ももが太くてふくらはぎは細め、膝とふくらはぎのくびれが目立たないものらしい。一方、男性の足は太ももの太さよりもふくらはぎの太さが際立つことが多いらしいから、膝下にクッション材を巻いて、凹凸を出してみる。ほとんど足はタイツみたいなものを履かなきゃいけない衣装だったから、シルエットがわかりやすく目立っていたのだ。ふくらはぎをやや太くして、鏡の前に立ってみれば、少し、それっぽくなってきたと、衣装の担当が喜んでいた。我妻君は男性の割に曲線美がキレイだから、そもそも問題はないし。女子の私から見ても、ちょっと羨ましい。
鏡を見ながら、気持ちガニ股気味に歩幅を大きめに出す。
肩も少し張り気味に。
いつも自分の身長が少しでも低く見えるようにと猫背になりがちな背筋をスッキリと伸ばす。
堂々と自信をもって一歩一歩を大きく、力強く、少しオラオラ的な感じも取り入れつつ歩いてみる。
さすがにオラオラはやめておくか・・・・
常日頃、目立たないように、それだけを考えながら過ごしてきたように思う。
でも背が高いからって、よくバスケとかバレーに誘われた。だけど、背が高いだけで得意なわけじゃない。
どちらかと言うと球技スポーツは苦手だ。
「宝の持ち腐れ」
友達によく言われたけど、今更、運動系の部活なんて真っ平だし。
高校に入ってからも、何をしたらいいのか、何をしたいのか、悩んだ挙句が定番の帰宅部。やりたいことも分からずに、ホント迷走しちゃってて、時間を無駄使いしてるんじゃないかって不安になることもある。きっと部活でもすれば、この学校のことも少しは好きになれるのかもしれないのに。
キラキラしている同世代を見ていると、出遅れ感が否めない。
でも演劇の練習をするようになった最近、サプライズがあったな。
「キレイになったんじゃない?」
驚くことに、そんなことを言われるようになったのだ。それも複数の友人から。
なんでって思ったけど、答えも彼女たちが教えてくれた。
「姿勢がよくなったからだ。よっ、このモデル体型」
モデルになんて、とてもじゃないけど手が届かないのは分かってる。
だけど、ちょっとだけ嬉しかったのは事実。
これって、もしかして演劇の男役効果?
もしかして身長が高いのってハンデじゃないの?
今までのコンプレックスが、ちょっとだけ私の魅力になり得たりするのかな・・・
最近の私は、そんなことを鏡の前で思えるようにもなったりしていた。
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